ゆりの木動物病院|阪急庄内駅すぐ近く|大阪府豊中市

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いざ、そのとき私は…

先日のこと。
狂犬病の登録代行で保健所に行った。
事務手続きをしてもらっている間、暇なため、保健所のロビーを歩き回っていた。
片隅にパンフレットなどが置かれているコーナー。
ちょうどいい。何か面白い情報誌でもないか。
まずは服部緑地のお花などを紹介したパンフレット。
一通りそのパンフに目を通したあと、すぐそばにあった待兼山PRESSという小冊子に目がいった。
待兼山って?
時たま聞くけど、なんだったっけ?
見ると大阪大学豊中キャンパスにある小山らしい。
大学が発行する冊子だった。
裏面には豊中キャンパスの広大な地図が描かれている。
へえ。こんなに大阪大学って広いんだ。
そういえば、高校時代の同級生が理学部に通っていたな。
あいつこんな広い大学で勉強していたのか。
うらやましいなあ。
と思いながら、ページをめくっていると、総合学術博物館の第22回企画展という記事が目に入った。
なになになに?
【四國五郎展~シベリアからヒロシマへ~】
四國五郎って誰だろう……。
寡聞にして知らなかった。
どうやらヒロシマを拠点にした画家で詩人であった方らしい。
展示会にも行っていないため、四國五郎さんの業績に関し、記事で書かれていることくらいしかいまだにわからないけれども、そこに書かれている言葉に不意に心をえぐられた。
「戦争を起こす人間に、本気で怒れ」
なんだ、なんだ。
目の前が突然、ぱっと光った気がした。
「ほんの一握りの政治家が起こす戦争で、桁外れの人が不幸になる。戦争を起こす本当に悪い奴に対しておまえは怒れ」
読めば、当時小学生だった息子さんに伝えた言葉だとのこと。

数日前、NHKのクロ現を見ていた。
近年、地方の戦争資料館の閉鎖が相次ぎ、当時の資料の置き場がなくなりかけているとのこと。
さらには行き場のなくなった資料が破棄されている現状が映しだされていた。
それどころかインターネットに流れた軍服が若者に売買され、サバイバルゲームをする際の衣装として再利用されている光景も。
体験者が語る。
戦争の悲惨さが今の若者には伝わっていないのか。
そんなコメントが聞こえてきた気がするが、あまり覚えていない。
それほど衝撃的な光景だった。
だって遠い昔、戦火の中、命からがらにまとっていた服だ。
そこらのセカンドストリートで安価に購入できる古着じゃない。
軍服には、戦地の泥がにじみ、流された血や涙が染みついているかもしれない。
そんなぼろぼろの戦着が、いまやどうでもいいサバゲーに転用されている。
「僕たちにとっては、ただの服ですよ~」
若者がお気軽に答える。
そっか。
やっぱり人の思いとは永遠に伝承されていくものではないのか。
でも……。
戦争はぜったい遊びではないとは思う。美化することもできないと思う。いざとなったらとても笑ってなんかいられないと思う。
アホな私でもわかる。
でも、なんだかへらへらしている。
ゲームをしている若者も。
それを眺める自分も。

最近、無念に命を落とされた夫を思い、ある夫人が本気で怒って立ち上がった。
ものすごい勇気がいることだと思う。
相手が国家だから。
それも都合の良いように幾多の改ざんを繰り返してきた政権だ。
好奇の目にさらされて……私にはとてもまねできない。
でも、あの女性は本気で怒っている。真実を本当に知りたがっている。

翻って、お前はどうよ?
いざ、というとき、私はあの寡婦のように本気で立ち上がれるのか。
四國五郎さんが伝えたように、平気でひどいことをしでかす一握りの政治家に対して、今の私は本気で怒れるのか。
だいぶ前、勇気と元気は使わないとどんどん失われていく、と何かに書いてあるのを読んだ。
そういう心の気が勇気と元気なんだよ、と。
日々使っていないと、削がれて、錆びついていく心の気。
それが勇気と元気。
なんとなくわかる気がする。
踏み出さなければ勇気はでない。
ちゃんと声を出し、心から人を包み込む笑顔でいなければ、元気だってでない。
萎縮ばかりしていたら……きっと立ち上がることもままならない。

削がれていまいか。
錆びれていまいか。
ひとたび世界を見渡せば、微小ウイルスに翻弄される中、国家に抑圧される人々がいて、それを大国同士で批判しあい、報復合戦に興じている。過剰な通信網の発達下では小さな個人がどんどん丸裸にされ、そして足元では自分たちの都合が良いように残された資料やリストが黒く塗りつぶされていく。
うそだろ。
戦時中であるまいに。

だが、そうでもなさそうだ。
時折、庄内を歩いていて、はたと思う。
対岸の騒動はそれほど遠いものではないことに。
なぜなら、この地には、現代の負遺産が取り残されている。
瑞穂の國とうたわれた、開校さえされなかった疑惑の小学校がぽつねんと今もとり残されている。
その現代遺跡の近くを通り過ぎるたび、なんとも言えない気持ちが湧き上がる。
草むし、朽ち始めた国有地の下に埋まっているものは、もはや、取りざたされた大量のごみや産業廃棄物だけではきっとあるまい。
口にするのも憚れるような、薄気味悪い、得体の知らない黒々とした何かが確かにそこに横たわっている。
そして今日もまた。
誰もが見て見ぬふりをして、あの前を通り過ぎる。

現代というカオスを眺めていると、やっぱり勇気と元気は日々養っていかないといけないようだ。
さあ、今年もまた暑い夏がやってきた。
無数の蝉声が澄みきった青空にひびき渡る。
あの喧しい鳴き声は、短き命の儚さを教え知らせるものか。
八月。
忘れてはいけない月がやってきた。
あれは終わったこととして忘れてはいけないはず。
だって終わりは次の始まりだ。
本当に大量の火の粉が舞い始まってからではもう遅い。
権力を、我が物顔で握りしめた一部の人間に、もっともっと恐ろしい歴史がまた築かれてしまう。
そしてそのとき。
私たちは、圧倒的な武力を前に、虐げられ、悲しいほどの無力さに気づくのだろう。
茫然自失の体になったときにはもう遅い。

再度、問う。
おまえはどうだ?
本気で怒れるのか。
いやいや。
諦念し、片隅に隠れて幼児のようにわんわん泣きわめくのか。
いかんぞ。
いかんぞ。
そうなる前に、この平和ぼけをした両目を少しでも覚ましておこう……。
だって、さもなければということが、この世にはあるから。

 
2020年08月05日 22:35

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