ゆりの木動物病院|阪急庄内駅すぐ近く|大阪府豊中市

阪急宝塚線・庄内駅3分、犬・猫・ウサギを診る動物病院です。

お目よごしですが・・・。

月曜なのに歌謡曲だなんて・・じゃ、今日も昭和歌謡でよろしくて

ねぇ、あなた
感謝してるわ
本当よ

あなたはいつも私を大事にしてくれた
本当に誰よりも私を愛してくれた
心から可愛がってくれたわ

でもね
それが重かったの・・・

私はカゴの中の鳥
あなたの束縛から逃げられずにいた
逃げたかったのよ

だから・・・
あなたの視線から逃れるように
いつも窓際に座った
黙って窓外に広がる景色をみていたわ
あなた以外の世界を知りたかったの

ねぇ、あなた
感謝してるわ
本当よ

でもね・・・
言いたいことはまだまだたくさんあるの

あなたはいつも私中心でいてくれた
欲しいものはなんでも買い与えてくれた
本当に私を愛してくれた
何不自由なくね

でもね
それが重かったの

あなたは私を微笑んで見つめた
私があなたのベッドで戯れていると
あなたは嬉しそうに笑った

何がそんなに嬉しいのか
私にはさっぱりわからなかったけれど

でもね
あなたの喜んでくれる顔は嬉しかった
あなたが微笑むと私まで嬉しくなった
本当よ

でもね・・・
段々、煩わしくなってたのよ

ねぇ、あなた
感謝してるのよ
やめてよ
泣かないで
別れはいつだって訪れるものよ

あれはいつだっけ
とっておきの写真があったわよね

私が心地よさげにソファーに寝転んでいると
あなたはなぜか
可愛いを連呼して
パシャパシャとシャッターを押した

でもね
私にはその意味がさっぱりわからなかった

それどころか
あなたの視線が窮屈にさえ感じたのよ

あなたの視線を横目にね
私はやり場のない気持ちを窓外に向けたわ

何をすることもなく
窓際に一日中座り込んで
黙って景色をみていたわ

一体、そこには何があるんだろうって
ここを出たらどんな世界があるんだろうって

だってもう忘れたもの
家の外にいたことなんて
もう、ずいぶん昔のことなのよ

ねぇ、あなた
やめて
泣かないで
感謝してるのよ

突然、私がこんなことを言いいだしたから?
ごめん
謝るわ
でもね、別れはいつだって早く訪れるもの

恋愛をたくさん積んできた私だから
別れの時くらいわかるのよ

泣かないで
いいから黙って聞いて

あなたはいつも私中心でいてくれた
欲しいものはなんでも買い与えてくれた

チュールに おもちゃ
またたびに シーバ
マグロの缶詰に 猫じゃらし

私の周りはいつも食べ物や物で溢れていたわ
でもね

本当に私が望んでいたものって
あなたにわかる?
私がそんなもので喜んでいたと本当に思っていたのかしら

私を見つめる目
その瞳には慈しみがあった
いつも無償の愛に満ち溢れていたわ
私だってわかってた

でもね
それが重かったの

絶えず注がれる
あなたの視線

鍋の中で丸まる私に
あなたは夢中でシャッターを押した
そんなあなたの愛が窮屈だったの

ねぇ、あなた
泣かないで
許してちょうだい
こんな風に伝えて悪いと思ってるわ

本当にごめんね
あなたには感謝してるの
本当よ

時々 思い出すわ
あなたとの日々を

色々なことがあったわね

ねえ
初めてあなたと会った時のこと覚えてる?

あれは台風の後だった
私は家族とハグれてしまったの

もともと母は自由気ままな人だったから
授乳してくれないことも度々あった
どこかに遊びに出かけてしまってね
たまに帰ってこないこともあったから

小さな私は心細くて
あちこちを彷徨った
自販機の裏
空き家の草むら
公園のベンチ下
いつの間にか兄弟ともはぐれて
ひとりぼっち
迷子になってたの

そしたらすごい雨が降ってきてさ
風もとても強くて

怖くなって
慌てて側溝に逃げ込んだけど
びしょびしょになった体は
だんだん凍えていって

怖くて
辛くて
怯えながら一人
ぶるぶる震えていたっけ
本当に死ぬかと思ったの

そんな私を拾い上げてくれたのはあなた
びしょ濡れの私をあなたは優しく抱き上げてくれた

どろどろで汚い私
服が汚れてしまうのに
構わず あなたは私を胸に抱き
おうちに連れて帰ってくれた

ねぇ、あなた
やめてよ
泣かないで
感謝してるの

笑っちゃうわよね
私 ひどく汚かったもん

目には膿のような目ヤニがいっぱいで
半分しか瞼が開かない状態だった

おまけに体中が痒くて
汚れを取ろうとして
あなたが櫛で毛をかき分けてくれると
地肌にはノミがいっぱいで

そんな私をみて
あなたは悲鳴のような声をあげたわ
とても慌てて

ねぇ、あなた
やめてよ
泣かないで
感謝してるの

すぐに病院へ連れて行かれたわ
微熱も出てたっけ

診察台に載せられた私は
怖くて ギャーギャー泣き喚めいた

そんな私を
あなたは不安そうに見ていたっけ
なんとかして、先生〜!
な〜んて、泣きべそかきながら叫んで

ふふふ
動揺するあなた 
みっともないったらありゃしなかったわ

それに何よ
あの小太りのおっさん
ふん  
もっとイケメンの獣医のところに連れて行きなさいよ

あいつ、ぶっとい指で
私の口を無理やり開けて

それからあ〜んな大きくて
とっても苦い薬をさ

私が嫌がってるのに
無理やり飲ませてきて

私はゲホゲホむせてしまって
なのにまだ終わらないのよ

最後はおまけと言って
全身にノミ用のスプレー

あのおっさん
ひどいったらありゃしなかった

二度とこんなところに連れてこないでよ
私はミャーミャー騒いで暴れたわ
あなたに向かって泣き喚いた

覚えてる?
そうよね
私の怒りは収まらなかったもんね
家に帰っても興奮冷めやらずに
ずうっと泣き叫んでたもの
当たり構わず、排尿してやったし

なのに・・・
あなたはそんな私を1日中看病してくれた
ずっとあやしてくれた
深夜でも
献身的にね

痩せ細った私の体が
しっかりと完治するまで
あなたは二時間おきに哺乳を続けてくれた

ねぇ、あなた
やめてよ
泣かないで
感謝してるの

冬に突然吐いたこともあったわね
あなたはいつも同じ
慌てちゃってさ
私を抱き抱えて、すぐにあの病院へ

あの小太りのおっさん
何よ あのおっさん
ほんとムカつく
もっとイケメンの獣医のところへ連れてきなさいよ

暴れる私をね
優しい顔をした看護師たちが
タオルで包むように保定してくれた

そしたら、またあの小太りのおっさん
ひょこひょこ診察室の向こうから出てくるの

にこりともせずによ
無理矢理だった
私の背中に注射を三本も打ったのよ
私、びっくりしちゃって

あなた
私があいつのこと大嫌いだって知ってたはずよね
なのに
なんで
あんなひどい目に私を合わせたのよ

私 発狂したわ
ぷんぷんに怒ったの

いつものように
みっともないくらいにギャーギャーと泣き叫んで
診察室で暴れるだけ暴れて
獣医も看護師も大変だったと思う

だって
やつらの腕が 血だらけになるまで
何度も引っ掻いてやったもの

あの後
あなたは必死であの人たちに謝ってたわね

なんで?
謝らなくてもいいのにさ・・・

自業自得なのよ
ふふふ

家に帰ってもね
私の怒りは治らなかった
病院でのあなたの態度が気に食わなくて
私を抱きしめようとしたあなたの手を
思いっきり引っ掻いてやったわ

気性の荒い私だもの
わかるわよね
私の性格
もうあなたも十分わかってるでしょ

収まりがつかなかったのよ
そんな私を
あなたはとてもすまなそうにみていたわ

そして
ごめん 
ごめんね
あなたは私に何度もべそかきながら
そう謝ったわ

でもね
ダメだったの

あの頃には
我慢の限界が来ていたのよ
あなたの存在が煩わしかった
鬱陶しかったの

あなたの優しさ
あなたの愛情
全て押し付けがましく感じた

私をもっと自由にさせてよ
そう思ったの

私は本気であなたから離れたいと思った
もっと自由に生きてみたい
そう思った

そうよ
だって
私は自分の魅力に気づいていたもの

なぜって?

だって そうでしょ
窓の外にはね
いつの頃から
男たちが張り付くようになったから

出てこいよ
こっちへ来いよ

男たちは私に向かって
ミャーミャー鳴いた
そんな男たちの
誘いの声も理由のひとつだったのかな

私 衝動に逆らえないタチだから

私は見計らったわ
洗濯をしているあなたの挙動を
一つも見逃さなかった

網戸を開ける一瞬の隙
私は狙い定めたように
おうちから さっと飛び出した

背中越しから
「ポン吉〜」って
悲鳴に近い声が聞こえたわ

けど
構わなかった
振り返ることもしなかった

だって
私だって必死だったのよ
本当にあなたから逃げ出したかったから

外に出ると
草陰に男が隠れていた
彼は私の前に飛び出す

そんな走り出す彼の背中を
私は追うように
街へ走り出したわ

連れられるまま
連れられるまま

私は必死で走ったわ

あれが初めての家出

初めて歩く外界は刺激的だった
知らない人たちがいっぱいいた
家の中とはまるで違う

自由が無限に広がる
そんな風に感じた

商店街には見たこともないものが並んでいた
なんでもあった
豊南市場に行けば
人間たちが売れ残った魚を投げてくれた
ネズミだってあちこち掴み放題だった

本当に
神秘的で
刺激的で
こんな楽しい世界が家の外にあるなんて

私はあなたに束縛されていたことを改めて知った

だから
本気であなたのことを恨みもした

あなたを恨んだのはそれだけじゃないわ
なんで私に「ポン吉」って名付けたの
今時、ポン吉なんて名付ける人なんていないわ
大体、私、女よ

ねぇ、あなた
やめて
泣かないで

ごめんごめん
今のは冗談よ

いまさら名前のことなんてどうでもいいわ
いいの
ポン吉でいいのよ
今はポン吉で幸せなんだから

話を戻すわね
私 思ったの
もう自由なんだって
そう思ったの

通りを歩けば、男たちが発狂した
私が腰を振りながら尻尾を突き上げて歩くと
びっくりするくらい
あちこちから大勢の男たちが現れた

路地 電信柱の物陰
2階屋根 側溝
男たちは次から次へと現れては
私を奪い合うように喧嘩した

♪喧嘩をやめて 二人を止めて♪
河合奈保子を歌っても
あの人たちは喧嘩をやめなかったわ

だってあなたも知ってるでしょ
発情した男たちが
どれほどバカかって

つまりね
あの頃の私には
魅力があったのよ
どの男たちもイチコロだったもん

ねぇ、あなた
やめて
泣かないで
感謝してるの

そうね
たくさん恋もしたわ
一夜限りの恋も何度かした

ねぇ、あなた
やめて
泣かないで
感謝してるの

それよりごめんね
赤裸々な話ばかりして

あなたには悪いと思うわ
聞きたくない話もあったはずよね
なんで今さら?

そんなに混乱しないで
でも避けては通れない話なの

最後まで聞いてちょうだい

二歳になって私は初めて妊娠した
つわりになった私を見て
あなたはひどく狼狽した
そんなあなたの顔を見て
申し訳なくも思った
あなたにはこんな私が
遊び歩いている悪い女のように映っただろうから

でもね、なんでだろう
狼狽するあなたを見て、シメシメとも思ってたの
もう少し困らせてあげたいって

だってあなたが優しすぎるから
私を甘やかしすぎるから

その愛が
どれだけ本物か
確かめるためにね
困らせてやりたかったのよ

妊娠中
私は迷惑の限りを尽くしたわ

その食器嫌い
お皿を変えて
じゃないと食べない
そのご飯はもっと嫌い
もっと美味しいドライフードを買ってきて
美味しくないわ このドライ
やっぱりウェットにして

あなたの困る顔を見ては
私は心の中で
ふふふっと笑っていた

二ヶ月後
私は出産

5つの新しい命だった
不思議だったわね

出産するまで、あなたはあんなに狼狽してたのに
あんなに困り果てていたのに
生まれてきた子供たちを見ると
あなたはとても喜んでくれた

それどころか
私以上に、育児もしてくれた
私を育ててくれたみたいに
あなたは懸命に私の子供たちを看てくれた

一人一人 子供たちを抱いてさ
哺乳も手伝ってくれて

それだけじゃないわ
あれだけあなたに反抗してきたのに
そんな嫌なことも忘れてしまったように

子供たちがうんちをしなければ
私の代わりにお腹をマッサージしてくれて

なんて優しい人なんだろう
こんな優しい人を私はなんで嫌がったのだろう
私はちょっと反省した

おまけにさ
夜になると
育児で疲れた私を
あなたは優しく抱き抱えてくれて
私が寝転がって、子供たちに授乳する背中をあなたは微笑みながらマッサージしてくれた

ねえ、あなた
やめて
泣かないで
感謝してるの

その後もね
身勝手よね 私
夜遊びがやめられなかった
ごめんなさい

結局あれから私は四回出産した
家出と夜遊びの楽しみが忘れられなかったのよ

でも、あなたはもう何も言わなかった
好きなようにさせてくれた

私が外に出てたいなら
と言って
毎月、ノミの駆虫もしてくれた

怖い病気にかかるといけないから
と言って
ワクチンも定期的に打たされた

病院は相変わらず嫌いだったけど
あのおっさんの顔は見たくなかったけれど

私のわがままに寄り添ってくれるあなただから
それくらいは聞いてもいいわ
そう思えるようになったのもあの頃のことね

でも、それが油断だった

六回目の妊娠
さすがのあなたも困惑したみたい

私をケージに押し込めて
病院へ連れていった

私 てっきり
また駆虫のために連れていかれるんだって
みくびってたの

けど、今度ばかりは違ったようね

ケージから出された私は
何かがおかしいとすぐに察したわ

慌てて
ミャーミャー暴れた

いつものように
おっさん獣医の腕を思いっきり引っ掻いてやった

そしたら洗濯ネットに押し込められて
気づくと、ふっとい針で
お尻に注射をされたの

すぐに眠くなった
瞼がすっごく重たくて

気づいた時には手術台の上
全てが終わった後だった
私は二度と子供を産めない体になっていた

あの時、本気であなたを恨んだわ
泣きながら私を抱きしめるあなたを
うつろな目で見つめ
私は本当にあなたを恨んでた
殺してやりたいとも思った

そうよ
私の人生は終わったのよ
そう思った

もう二度と男たちを虜にできない
自由を奪われた
そう思ったの

そりゃ 今ならわかるわ
あなただって、次々と生まれてくる子供たちの新しい養育先を探すのに困っていたと思う
でも、避妊するなら
私に一言くらい相談があっても良かったんじゃなくて?

あれ以来、あなたの顔を見るのでさえいやになった
外に出て行くのも嫌になった

私は家に閉じこもったわ
自分の殻に閉じこもった

あなたを許せなかったの
あなたが出してくれるご飯も
あなたの前では
わざと食べないようにした

あなたが猫じゃらしを持ってきても
私はもう興味を示さなかった

だって
興味を示せば
あなたに負けたことになるから

強情な私ね
ほんとバカだったわ
あんなに良くしてもらったのに

ねぇ、あなた
泣かないで
感謝してるの
本当よ
なのに私・・・

歳をとるとダメね
涙もろくなるの

私 なんであんなに
あなたに反抗したんだろ

なんでも買い与えてもらったのに
全て私を中心に生活してもらったのに
あなたは私をいつも大事にしてくれたのに

チュールに おもちゃ
またたびに シーバ
システムトイレに 自動給水器

少し呼吸が苦しくなってきたみたい
でもね
まだ話し足りないわ

ねえ あなた
泣いてるの
やめてよ

病院は嫌いよ
今もあの小太りのおっさんを見ると吐き気がするくらい

でもね
今ではわかるの

ケージに入れられて
毎週連れていかれるでしょ
本当は病院なんて嫌よ

でもあなたが泣きながら
ごめんね
ごめんね
というと
今の私はもう抗えないの
昔みたいに暴れて駄々をこねることなんてできないの

だって
皮下に輸液をしてもらうと
一時的にだけど
体がとても楽になるから

あんなにしんどかったのに
だるさがすうっと抜けて
楽になるのよ
ふふふっ

ありがとう
あなたが私のために病院へ連れていってくれるのが
ようやく私にもわかってきたみたい

そりゃ今も小太りのおっさんは嫌いよ
もっとイケメンの獣医はいなかったのかしら

でもね 
病院通いをしてさ
あいつがそんな嫌なやつじゃないってことくらい
今の私でもなんとなくわかるようになってきたわ

もう あの頃とは違うのよ
私も変わったみたい
なんでも反抗してきたあの頃とは違うの

私も歳をとった
考え方も変わった

私みたいなバカでもさ
少しは経験を積んだのかしら

ごめんね
足腰が悪くて
すぐにふらついてしまって

ありがとう
毎日抱き抱えて
トイレに連れていってくれて

あなたに抱き抱えてもらうと
とても安心感があるわ

毎日 私を抱き抱えてくれる
毎日 痩せほそったこの体をマッサージしてくれる

今では
無償の愛を感じるの

あなたは本当の母親
私の唯一信頼できる人

脱水症の私だから
血圧も高くなった
視界も狭くなった
便秘気味で苦しくなる
関節が痛くて階段も登れないし
ちゃんとまっすぐ歩けないし

あなたはそんな私の背中を今日も優しく撫でてくれる
あなたのベッドの上で
小さく丸まる私の背中を

ごめんね
あんなにひどい態度を取ってきたのに
最後までこんなに優しくしてくれて

ねぇ、あなた
感謝してるの
本当よ
泣かないで
本当に感謝してるの

少し疲れてきたみたい
おしっこがしたくなってきたわ
トイレに連れていってくれる?
本当はもうほとんど出ないだけどね

おかしいわよね
でももう20年近く生きてるの
大往生でしょ
だから十分よ

そう思えるのも
あなたのおかげ
あなたのおかげで
こんなに長生きできた
まさかこんなに生きていけるなんて思わなかった

側溝で
びしょ濡れになりながら震えていた私
怖かったわ
心細かったわ

あの時、あなたが助けてくれなかったら
私は本当に死んでいた

そんな私を
あなたは我が子のように助けてくれて

そして今も同じ
あなたはあの時のように
私を抱きしめてくれる
優しく包み込んでくれる

病気で苦しむ私を
何一つ恩返しできなかった私を

無償の愛で
あの時のように
抱きかかえて

ねぇ、あなた
今ならわかるわ

あなたの優しさが
母親以上に愛してくれたあなたの優しさが

ねえ あなた
感謝してるわ
本当よ
本当に感謝してるの

いつも優しかったあなたへ
いつも愛情を注いでくれたあなたへ

なんでそんなに私に尽くしてくれるのか
あの頃の私にはさっぱりわからなかったけど

でもね
今ならわかるの
これだけは言えるの

わがままばかりで
ごめんなさいねって

ねえ あなた
泣かないで
感謝してるのよ
本当よ

だから
もう一度だけ甘えていい?
あなたの膝の上で眠らせてくれる?

私 最期くらい
素直になろうと思う

別れる前に
今まで言えなかった感謝の言葉を
言いたいのよ

聞こえないようなか細い声で
本当に申し訳ないんだけど
感謝の言葉を言いたいの・・・

 
 
2021年08月14日 15:00

ワクチン接種

先週の日曜日に、1回目のワクチンを接種することができた。
大規模接種センターはとても流れがスムーズで、待ち時間もなく、思ったよりもすんなりと接種することができた。
ありがたいことである。

で、その後のことではあるが、二日ほど、腕の痛みを覚えた。
それだけ。
でも、一緒に接種しにいった息子は症状が出た。
打った直後は痛みだけだったが、翌日から微熱が出て、関節痛がひどかったらしい。
翌日仕事から帰宅すると、「父さん、インフルエンザに罹ったときみたいに背骨やら関節が痛いわ。父さんは? なんもないの?  なんか、すっげえむかつく」とほざいていた。

ばーか。
日頃の行いじゃ。
ワクチン接種にも人間性がでんねん。
人間の深みというか味わいというか。
おでんのだいこんみたいにじゅわっと滲み出んねん。
とくにコロナにおいてはな。
ははは。

まあまあ。
話によると二度目のワクチンの方が副作用は出やすいらしい。
早めに打ててうれしいが、それなりの警戒も必要なようである。
 
2021年06月24日 17:55

雪松のお供に。

餃子の雪松が病院の近くにオープンした。
胸おどる。
だって無類のぎょうざ好きだもん。
餃子は自分で作るくらい。
でも、まあ、作るたびに、「まずい」と家族から不評を買いもするが。

まあ、そんなことはどうでもいいやね。
雪松さんに興味引かれるのはそれだけではないもんね。

だって、ここ、デジタル時代に反逆するかのような無人販売をしてるらしいし。
なんか田舎の道端でやってる農作物販売みたい。
ほのぼのするような。
そんな話題性もあってか、なんでもオープン初日は行列ができたらしい。

うむうむ。
やはり食してみたい。
無人販売で買ってみたい。
でもなあ・・・。
突然、買って帰ると、また怒られるからな。

「ちょっと、余計なもの買ってこないで。毎日、ちゃんと献立は考えてるの!」

な〜んて、ぷんぷんだもん。
それもこっぴどく。

もう。
大丈夫だって。
俺だって、ちゃんとわかってるよ。
俺、アホだけど、バカじゃないもんね。
サル並みにはちゃんと学習できるもん。

だから、そうだな。
よし、そうだ。
こうしよう。
ここは子供をだしに使おう。

帰宅後、台所にあの人がいることを確認し、呑気にテレビを見ている息子にいう。
「お前、そろそろ餃子たべたくないか」
「いらない」
「なんで?」
「だって、父さんが作る餃子、究極にまずいもん」

フン。
違うわ。
わしが作るんじゃない。

煮えくり返りそうな思いをひとまず押し殺す。
咳払いひとつ。
いうなれば、こほんとひとつ龍角散だ。
で、と。

「ちゃうで。あんな、病院の近くに餃子の雪松がオープンしたんや」
「あの無人販売の? それなら興味あるな」
「あるやろ。なら、買ってこようか」
「ええけど、ちゃんと母さんに了承得てから買ってきた方がええよ」

(あかん。ばれてる・・・)

賢明な私。
瞬時に作戦を練り直さねば。

よし。
ここは息子の機嫌をとる作戦に変更だ。

「な。受験生のお前も、たまにはちゃんとスタミナ満点の栄養食をとった方がええやろ。な、餃子食べたくなったやろ。週末にどうだ?」
「はははは」
顔をテレビに向けたまま、息子がにやりと笑います。
「かあ〜さ〜ん。父さんさぁ、オレをだしにして雪松の餃子を食べたいみたいだよ」

(こいつ、ほんまにふざけやがって。余計なこと言うなっ!)
にやにやしたむすこ。
慌てる私。
「何いうてんねん。お前を思ってのことやでぇ~。な、食べたいだろ」
「いやいや、父さんが食べたいだけだろ」
「そんなことはないぞ。きっとお前も食べたいはずだ」
「俺は、そんなに食べたくない」

あかん。
完全に心の中が読まれている。
仕方ない。
ここはいったん大人の私が素直になるしかない。
子供あいてに本気になってどうする?

「わかった。正直にいおう。食べたいのは私だ」
「素直でよろしい。じゃ、焼きで」
「なに? あほかっ!」

(ほんま、こいつ、わしのいやがることばっか言いやがって・・・。焼き餃子なんて食えるかっ!)

でもな、あかん、あかん。
冷静にだ。
そうそう。
咳払いをもう一度。
ここぞとばかりに、ゴホンとひとつ。
龍角散ダイレクトォ~!

「いいか。教えておくぞ。我が家では、餃子は水餃子。決まってるんやで」
「誰が決めたん?」
「わしが決めた」
「余計あかん。ぜぇ~ったい、焼き」
「あほ。あんな油っこいもんなんて食えるか。歳を取ったら、油より水餃子のがうまく感じんねん」
「俺は若いの。だから焼き。じゃなきゃ絶対ダメ。譲らんから」
「うるさい。水餃子だ」
「だめ。焼き。じゃなきゃほんまいらん」
「ふざけるな。餃子は水餃子だろっ! 雪松の餃子は太子の時代から水餃子。そう決まってんねん」
「なんやねん、太子の時代って」
「お前、聖徳太子もしらんのか。いい年こいて、このアホめ」
「アホはそっちやろ」
「まっ、まっ、まさか、おまえは太子が定めた十七条の憲法を読んだことないのか」
「あるかっ!」
「ふっふっふ。あの関西が生んだ偉大な人物を知らぬとは。かわいそうなエセ大阪人め」
私はにやりと息子を見下ろします。
「よろしい。おしえてやろう。まずその一、和を持って貴しとなす。うやまうことを根本とせよ」
「だ、だ、だからなんだよ」
「うやまえ。父をうやまうのじゃ。餃子は水餃子にせよ」
「あほくさ。オレ、もう、いらねえし」
そういって、息子は両手を上げて、背伸びをする始末。

くそ。
見透かしやがって。
ほんま頭にくるやつだ。
もう許さん。
今日こそ、お前に立場と言うものをはっきりさせてやる。
父親の威厳というやつだ。
お前が今まで見たことがない、ほんまもんの威厳というやつを見せつけてやろう。
いいか。
その腐り切った耳をカッポとほじって、よく聞くが良い。

「お前は大事なことを忘れている」
「何を?」
「なにを、だと。ははは。十代後半にもなってお前はまだそんなこともわからんのか」
「なんだよ」
「この家では私が絶対だ」
「はあ?」
「だから、我が家ではこの父親が絶対の権限を持っておる。幼少の頃からそう教えてきたはずだ」
私はそのまま息子を包み込むように優しい目で見つめ、ダメ押ししてやりました。
「いいか、この家では私の言うことがすべてだ。息子のお前は黙って聞け。従え!この鶴の一声に従うのだ」
「はあ? もうわけわからんし」
そう首を傾げた息子は突然、腹を抱え、くすくすと笑い出しました。
そして笑いが治らないのか、さらには噴き出しました。
だはははは。

な、なんだ、その態度は・・・。
「何がおかしい?」
「おかしいもなにも・・・」
そう言って、息子は椅子に座ったまま、上半身をくるりと回します。
台所へ顔を向けた息子は、そのまま
「かあさ〜ん、父さんが地雷踏んだで。あんなこと言っとるけど、言わせといてええんか?」
と一言。
軽率にも導火線へと火を放ったのです。
ひやあ〜。
それはあかんやつや。
絶対に使っちゃあかんやつやって!
やめろ。
我が家の最終兵器を簡単に出すな。

でも、時すでに遅し。
急いで口に手を当てるも、吐き出した言葉は戻ってきません。
あのシェーンのようにです。
馬に乗って颯爽と去っていくだけです。
振り返っても、後悔しかやって来ない。
どうやら今年もそんな夏がやってきたようです。
すぐに凍りついた我が背中には、ドライアイスのごとく、グングンと冷気が迫ってきていました。
そして白煙と共に耳元まで一気に押し迫ると、アラジンの魔法のランプのごとく湧き出たマザーデビルが、ぽつりと囁くのです。
【焼きに決まってるやろ。ついでにあんたもホットプレートで踊り焼きにしたろか】
もう、ぐうの音も出ません。
凍りついたまま、無言で項垂れている私を、息子がうれしそうに笑って言います。
「最高やな。週末は父さんの踊り焼きやて。雪松にチャーシューや!」

な、ななんてことを・・・。
これが家庭の末端に据え置かれた私の立場なのか。

ということで、今週末、我が家の夕食は雪松と一緒に脂身たっぷりの焼き豚となりました。
悲しい現実ではありますが、こうなった以上、私も受け入れるしかありません。
残された道は他にないのですから。
今週末、私は用意されたホットプレートという華やかな舞台にて、あのかつおぶしのごとく、切なく舞い、そして儚く踊り散ってまいりたいと思います。

「生きて帰らじ 望みは持たじ」
この精神一択で、今週末を過ごす所存であります。

庄内ならびに豊南町のみなさま、短い間ではございましたが、大変お世話になりました。
本当によくしていただき、今となっては感謝の言葉しかございません。
皆様方のご健康とご多幸を祈願し、これにて筆をおろしたいと思います。
世の中年男性の方々も、くれぐれもホットプレートには気をつけて、ご自愛いただければと存じます。

では、最期に。
美味しい雪松と共に。
ごめんなチャーシュー・・・。

 
2021年06月23日 17:42

もしかして世紀の一戦が開催?

朝刊を見て驚いた。
だって、阪神、オリックスがともに首位。
あかん。
信じられへん・・・。
コロナといい、暑すぎる気候といい、ほんま世の中どうなってんねん。
まさか在阪球団同士の日本シリーズってか?

ええ〜!
そんなん、嘘やろ。
阪神、オリックスのワンツーフィニッシュ?
ほんま、そんなことが起こりえるか~。

夢ちゃうよな、これ。
ほんまに起こったら、まさに世紀の戦いになりそうや。

五輪が国家発揚の起爆剤になるって?
あほか。
そんなんうそうそ。
阪神優勝したら、それどころちゃうで。
国家発揚どころか、列島大爆発じゃ。
日本中が大騒ぎになんでぇ。
そないなったらどないすんねん。
緊急事態宣言また出てまう。
もう、お祭り騒ぎどころじゃすまへんって。

あかん。
あかん。
あかんて。
わし、考えるだけで卒倒してまいそうや。

なんや?
まだ気が早いやて?

そっ、そ、そうだな・・。
まっ、まだまだだな。
そっ、そっ・・・そうそう。
わし、また浮かれてもうたか。
あんたが言う通り、まだまだ早いわな。
だって、うちらの阪神やもんな・・・。
 
2021年06月22日 16:23

この傷、噛まれたのではありません

私の右肘にできた青痣のような怪我を見て、何人かの飼い主さんが
「先生、噛まれたん?」
とニヤニヤ。
「犬? 猫?」
そりゃ、そう思うよな。
動物病院だし。
でも、違います。
通勤中、自転車で派手にコケました。
そりゃ、そりゃ、もうひどい転倒の有様で。
その日、いつもより早く出勤しなければいけない理由があり、少しばかり急いで自転車を漕いでおりました。
急な砂利の坂道をスピードを落とさず一気に下っていた際、横目に映る横断歩道の信号がスッと青に変わるのが目に映って
「行っちゃうか」
普段はその場所で左折することはないのですが、急いでいたため、そのまま右折。
ハンドルを切った途端、こんもりとしたツツジの陰に隠れた腰の曲がった老人の姿が目に映る。
「あかん」
慌てて避けようとしたら、砂利にタイヤがとられ、横滑り。
ズリズリズリ〜と後輪が滑って、右肘と臀部を強打し、このザマ。
自転車のかごは凹み、カバーは破れて。
それくらい、ずで〜んと派手にやってしまいました。
多くの通勤途中の人々に目撃され、恥ずかしいと言ったらないことないこと。
その視線が冷たく、悲しいことといったらなんと表現すればいいのか。
それを起こしたのがまた自身の生まれ日の翌日で、年甲斐もなく、なにやってんねん!と情けないこと。
新品のノートPCは動かなくなるし。
診察中、肘と足が痛くてたまらんし。
といったわけで、文字通り、今も心身ともに深く傷ついております。
まあ、痛々しく映って当然か。
どうか、来院のみなさま、笑わずにそっとしていただければと願っております。
くれぐれも一部の飼い主さんのように、クスクスと笑わないでください。
そして、どこかの誰かみたいに、嬉しそうに傷口を割り箸でツンツンと触ってくるのはやめてください。
もってのほかです!!
 
 
2021年06月10日 20:04

お前、まさか……

少し前のこと。
浪人生の息子とテレビを見ていたら、ボートレースのCMに変わった。
レーサー同士のライバル心あり、恋愛ありの、まるで青春真っ只中を連想させるCMだ。
それを見ていて息子が言う。
「父さん、俺、たぶんボートレーサーいけんで」
「はあ?」
ニヤけやがって、このアホぼん。
受験勉強にもう飽きたのか。
いずれそうなるとは思っていたが・・・。
半ば呆れたように見ていると、当のアホウは画面の綺麗な女性にニヤついたまま、
「いやさ、前から思っていたんだけどさ、俺、ほんまボートレーサーに向いてると思うねん」だってさ。
わかったわかった。
とりあえず聞いたるわ。
「で、なんでなん?」
「前にな、部活の試合帰りに住之江でボートレースを見たことあんねん」
「お前、高校生の分際で賭けごとしてたんか?」
「ちゃうちゃう。電車の待ち時間に友達とレース見ただけ。あそこのレース場な、柵に隙間があんねん。そこから覗けるんや」
「隙間?」
「うん。こっそり覗いてるおっさん、結構おんで」
「ふーん。確かにその手のおっさんはいそうだな」
「でさ、俺も暇だから同じように覗いてた。あれ、モンキーターンっていうんやろ」
「ああ」
「俺、できると思うわ」
「ふーん」
「もしかしたらサッカーより向いてるんちゃうかな」

なんとなく言いたいことが見えてきた。
うちの息子、学校の成績はすってんころりんだった。
でも、運動ではなかなかイケていた。
幼稚園の頃、「息子さん、運動がとても得意ですね」と褒められたのが親の欲目だった。
勧められるまま体操教室に通わせた。
で、その日、いきなり8段の跳び箱を飛んでみせ、驚いた。
大鉄棒を習うと、ぐるんぐるんの大回転をすぐにできるようになった。
ロンダートやバック転もいとも簡単にこなした。
走らせても早い。泳ぎも得意だ。
球技をやりたがってサッカーを選んだが、どこのチームに入ってもそれなりの活躍をしてきた。
まあ、こやつならある程度はできるかもな。
「とにかくな。俺、思ったんや。これは俺に向いてるって」
「そうなん。でも、他にもレース系はあるだろ。競輪とかオートレースとか競馬とか」
「うーん。競輪も騎手もバイクもやってみたい。でも、ボートレースの方が自分に合ってる気がする」
「なんで?」
「ただの直感」
「ふ〜ん」
「それにな。サッカーと違って、レースは一人で戦えるやろ。誰のせいにしなくてもいいし、されないし。だから惹かれるんや」
ふーん。
なるほど、そう言うことか。

さてさて、どうしたらいいもんだか。
やりたければなら、やってみてもいいんちゃうか。
別に、みんなと同じように受験勉強なんかしなくてもいいわけだし。
受験なんてさ、下手をすれば青春という時間の無駄遣いになるからな。

と言いかけて、やっぱ、や〜めた。
子供思いの、なんとなくきれいに聞こえそうな、優しげで甘い言葉をゴックリ飲みこむ。
だって、俺、ボートレースには苦い思い出があるもんね。

あれは開業する前のこと。
開業資金の捻出をどうしようか私は本気で悩んでいた。
そんな折りに、テレビで悪いものを見てしまった。
売り場でのインタビューシーン。
「あなたは、なんでボートレースにハマったんですか」
「わし? そんなん、当たり前やろ。1レースで2000万もうけたことあんねん」
「ええ〜!!」
インタビュアーが驚いたと同時に、私も「まじか」と体を乗り出した。

ええ〜。
そうだったか。
そうかそうか。
その手があったのか。
もう銀行に頭下げて、お金借りなくてもええやん。
だははは。

悪い番組を見たもんだ。
もう、金貸しなんて糞食らえ。
遠慮なんかするもんか。
当てちまえ。
人生は一度きり。
持ち金、全部賭けてやれ。

それまでギャンブルなんてまるで興味なし。
ほとんどしたことがない。
ずぶのど素人だ。

それでも私は迷わず、週末、レース場に通い出した。
もちろん妻には内緒で。
貯めていたお金を口座からちょこまかおろし、一番近い尼崎のボートレース場へ。
当たれば、よっしゃ〜!と小躍り。
負ければ、くそっ。
ふん。
次こそ当ててやる。
鼻息荒く、賭け金を増やしていった。
高揚感からか、心臓がドキドキしていって、同時に、レースに馴染めば馴染むほど、地に足がついていないというか、ふわふわとした浮遊感を覚えるようになった。
そして次第に自分が思っていたものとは違う世界や、ギラギラとした心模様がチラついてくるようになった。

レース場は時間が進むごとに混雑してくる。
朝は閑散としていても、夕方になると一杯だ。
混雑とともに、段々と場内が荒んでいく。
響き渡る怒声。
飛び交うハズレ券。
レースが終わるたびに、一斉に券が床に投げ捨てられ、踏み潰されていく。

券売場ではずらりと並んだおっさんたちが、とんでもない賭け金を告げた。
そんなに賭けんの?
びっくりするような額を聞くたびに、自分もそれくらい賭けなければ大当たりしない気がしてきて、心がひどく乱れた。
山場になると、血走った目があちらこちらでぎらつく。
疾走する6艇のボートを凝視し、「刺さんかい、こらっ!」と声を荒げ、終われば、券を握りしめ、負けたボートレーサーを柵越しになじる。

さらなるおまけが、あれだ。
その日の最終レース。
券売場に並んでいた時のこと。
負け込んでいた。
今度こそ当てたる。
強い思いを胸に秘めて並んでいると、とつぜん、目の前を、ヨボヨボのじいさんが私を押しのけるように割り入ってきた。
なんやねん。
文句を言おうとして、言葉を飲み込む。
完全に目がイっていた。
焦点がまるで合ってない。
片側の口角からよだれが垂れている。
何かぶつぶつ呟いていて、まるで廃人だった。
驚きの眼で、凝然とじいさんを眺めていると、そのまま彼は、亡霊のように全く存在感のない足取りでふらふらと私の目前を通り過ぎていく。
そしてすぐ先の壁際の柱に立つと、もたもたとした動作でズボンとパンツを膝まで下ろした。
たるんだ下半身をためらいもせずに露出し、ぶつぶつ呟きながら、柱に向かってジョボジョボと・・・。
なのに誰も気にかけない。
賭け人たちが、券売機へ次から次へと向かい、じいさんの背後を通り過ぎていくというのに。
それどころか、じいさんのすぐ脇では、壁にもたれて座り込んだまま、レース紙に見入っている人がいた。
耳に赤ペンを挟んだその人は、紙面に目を落としたまま、ちらりとも老人を見ない。
視界にも入らないようだった。

その刹那、目に映る光景の色合いがガラリと変わった。
勝ち負けだけにこだわって、今まで気にも止めなかった景色が急に視界へと飛び込んできた。

足元にはチューハイやビール缶が転がっていた。
床には食べかけのおでんやたこ焼きの容器が捨てられている。
汁の中ではタバコの吸いがらが溢れていた。
建物の真新しさや綺麗さに誤魔化されて、そんなこと今までまるで気付かなかった。
それが突然に、周囲一帯が不衛生な空間として、退廃的に映り出すのだ。

地べたに座り込み、他会場のモニター画面を見つめ、黙々と紫煙を吹かしているおっさん。
壁にもたれて、行き交う人たちをぼんやり見回しているじいさん。
服なんてヨレヨレ。
踊り場ではへたり込んで、膝に新聞紙を拡げたまま、ぐったりと気絶したように項垂れている人もいた。
予想屋の周りには人々が群がっていて、そのすぐ近くでは陰気な顔をした男が舐めるようにお札を数えている。
どこにも笑顔なんてない。
どの顔もひどく不機嫌で、鬱屈としている。

これ、どこかで見た。
こんな退廃した空気を確かに感じたことがある。
バックパックひとつ。
「なんでも見てやれ」と学生時代、途上国のスラム街を興味本位でほっつき歩いていた時。
ガレキだらけの不衛生な街並みにはドブから腐臭がただよい、ぎらついた目の野良犬がいて、そしてあんな風に地面にへたり込む人たちがいた。
あれだ。
あれだった。
怖いもの見たさの代償で得た不意の戸惑い。
あの時以来の強烈なインパクトが湧き上がる。
いつの間にか新世界に触れる楽しさを忘れ、鬱屈とした気持ちへと迷い込み、負のスパイラルへと嵌まっていた。

これ以上、奥へ入り込むといけないかも。
途端に、喧騒が耳から消え、その場にいる自分が怖くなってきた。
真面目に働こう。
そう思うと、私はレース場をそそくさと後にし、塚口行きのバスに乗り込んだ。

阪急電車に乗って、ようやくほっとした。
そこにはいつもと同じような日常があった。
座席にはいつもの見慣れた人たちが座っていて、本を読んだり、音楽を聴いて目を閉じたり。
会話を楽しんでいる人もいた。
つり革に手をかけてぼんやり外を眺めている人たちも、いつもの街中で見かけるごく普通の人たちに見えた。
そして、そんな人々の姿がとても愛おしく思えてきた。
窓外に視線をやると、見慣れた景色が後ろ向きへと流れいく。
ぼんやりとごく普通の景色を眺めながら、時が止まったような、不毛な場所がこの世にはまだまだあるのだと改めて反芻していた。

あれ以来、私はレース場に通っていない。
もう行きたいとも思わない。
だって、私にはとても不向きな場所だとわかったから。

息子よ。
これは、たぶんの話だ。
たぶん受け取る側の感覚の問題だ。
人によって感じ方も受け取り方も違う。
でも、賭け事の世界は想像した以上に心の荒場となることがある。
軽い気持ちで踏み入れるもんじゃない。

酒と同じか。
嗜める人間ならそれでいい。
でも、その嗜み方は、人によっても、その時に置かれた心理状態によってもずいぶん変わる。
知らぬうちに、飲み込まれているなんてことはざらだ。
心身ともに麻痺し、あんなハズレ券みたいに舞い上がって。
賭ける側も、賭けられる側も。
気づけば、舞いに舞って、踊らされている。
そして散々に弄ばれた挙句、床に無惨に打ち捨てられ、気づけば靴底で踏みにじられて。

時間と金を浪費するだけで済めばいいさ。
でも、あのじいさんみたいになってどうする。
自我までどろりだ。
溶け出してからではもう遅い。

勝手な想像だろうか。
そこまで心配することはないか。
無論、杞憂であればそれでいい。

でもな。
平和で、とても呑気なお前は、私と同じような感覚に陥る気がする。
勝負師の柄ではない。
人を蹴落とすことも好みはしない。
ぎらついた目で獲物を探すタイプか。
いや、のんびり草食むタイプだろう。
だからきっと私と同じように葬られる。
ニヤけた今のその表情や心構えで、安易に手を出さないほうがいい。

なぜなら、今もまだ居着いているんだ。
私の脳裏に。
あのよだれじいさんの姿が焼き付いて離れずにいる。
脳みそに住みついたじいさんは、たるみ切った下半身をぶざまに露出したまま、あの白い壁に向かってぶつぶつと独り呟いている。
【お前は真面目に働けよ】
哀れむべきあの姿は、今も時々現れては、私のハザードランプとなって灯ってみせる。
 
 
2021年06月06日 14:36

みなさま、新天地でも頑張ってください。

ブログを更新する余裕がなく、気づくといつの間にか六月になっている。
春は人事異動や入学などで新しい生活が始まる時期。
来院される人たちの顔ぶれも少し変わってきた。
特に3月から4月にかけては、親しくなった飼い主さんの何人かが庄内を去ることとなって。
懇意にしてくれた人も多く、スタッフ共々、寂しい限りです。
コロナ禍で、新しい地域に赴かれるのはきっと大変だったと思いますが、どうか、みなさま、早く新しい生活になれてください。
新天地でのご活躍を期待しております。
また庄内に来られた際は、是非とも顔を出していただければと思います。
その時は、違う土地でのおもろい体験談を聞かせてください。
スタッフ共々、楽しみに待っています。
 
2021年06月01日 20:26

結構、身近に迫ってるんだな

緊急事態宣言が出はじめて、外出する機会がずいぶんと減った。
おまけにこの時期は繁忙期でもあり、外でふらつける時間も限られてくる。
だからか大阪でコロナ患者が急増していると聞いても、なんだかテレビの向こう側の、他人事のことのように思っていた。
飲みに出歩くこともないし。

でも先週くらいか。
飼い主さん達から「どこどこの職場でクラスターがあったらしいよ」とか「友達の友達が、罹ったの」と聞くようになった。
気付かぬうちに身近にじわりじわりと差し迫っているようだ。
暖かくなれば、少し感染者が減るかと思っていたけれど。

あ〜あ。
早くワクチン接種をしてくれたら。
そうすれば働いていても、少し気持ちが楽になるのだが。
でも世の中、望む通りに簡単にはいかないもんだし。
安心して仕事に精を出せれば良いのだけど、この調子だとまだまだ時間はかかるのかな。
とにかく早くこの騒動から解放されたいものである。
 
2021年05月17日 10:16

進撃の巨人がいよいよ終わるらしいんやて

進撃の巨人がいよいよ終焉を迎えるらしいんやて。
知らんかったの?
わしはぜーんぜん平気やで。
だって、代わりに進撃の猛虎が始まったもん。
その巨人じゃないわって。
はぁ? 
ええねん。ええねん。
も、そうしとこ。
あーんな憎っくきジャイアンツなんて終わってくれて結構やねん。
どんどん負けてくれて、ええねんええねん。
踏み潰してくれて、ほんまオーライ、オーライ。

えっ?
ちゃうって。
何言うてんねん。
誰が、はじめだけやねん。
そんな、毎年毎年、タイガースは最初だけ強いって・・・。
あんた、おもろい顔して、ひっどいこと言うな・・・。
なーんもわかってないな、あんたは。
今年の阪神はちゃうで。
ダントツや。
そうや〜。
今年はいつもと出来がちゃうねん。
ちゃう、ちゃう。
ほーんまちゃう。
だって、見てみい?
あの子たちの笑顔。
大山なんかホームラン、笑いながら打っとるで。
佐藤なんてこっちまで腹抱えそうな場外や。
もう桁が違うやろ。
そうや。
藤浪も球場がどん引きするようなホームラン打ったしな。
あのな、ここだけの話やで。
わしとあんただけの秘密や。
わしな、もうそろそろ、あの子、二刀流に挑戦してもええと思う。
そうそう。
来年あたり、エンジェルスに・・・。
まだその話は早いか。
そうやな。
やめとこ。
近本も、これまたええ塩梅やろ。
おまけに、梅野はうめえのぉ〜。
だははは。
そんな腹抱えて笑わんでもええやろ。
親父ギャグがそないおもろいか。
へぇ、あんたには、わかるんやな。
ええ塩梅にかけたのが。
そうや〜。
な。
今年はほんますごいねん。
だからな、わし、もう二度と「マルテ、まるで打てんサンズ」なんて言わへん。
ほんまごめんな。
毎年毎年バカにしてほんまごめんな。
もう、最下位争いは金輪際、DeNAと中日に任しとこ。
ヤクルトも広島もこのままずっとウトウト昼寝してくれたらええねん。
そやそや。
阪神、このまま首位を突っ走って、最後は優勝。
な、そうしとこ。
そしたら、みんなで道頓堀に集まってな。
六甲おろし歌いながら、あのサンズのおちゃらけたパフォーマンスすんねん。
そこにほんまもんのサンズが現れたら、おもろいやろな。
みんなで橋の上でハッピーハンズすんねん。
あのタコ踊り、生で見たいやろ。
そのまま、踊りながら道頓堀から新世界まで走ってこうな。
楽しいやろな。
きっと、溜まりに溜まったウサ、全部晴れるで。
な、だから、頼むで。
このまま突っ走ってくれって。

ま、無理やろうな・・・。
だって、わしら、毎年、こんな話してんもん。


 
2021年04月21日 08:59

ほんとうにこれが現実?

また80人以上の人々が殺害されたという。

人々が警察に包囲され、銃撃される。

国軍が市民を次々と殺す。

目にあまるような治安部隊の残虐さ。

まるでポル・ポトの悪夢を見ているようだ。

クーデターからジェノサイドへ。

小数部族の部隊が必死に抵抗している映像から、すでに内戦化していると報道されていることにも納得する。

もはや彼らは、警察や治安部隊と呼べるような組織ではない。

 

この国ではありえないことだろう。

だが、同じようなことが目の前で起きたら・・・。

すぐそこで起きていることのように想像してみる。

 

目の前の国道をデモ隊が叫んでいる。

自衛隊たちが一斉に私たちを取り囲む。

警察が火炎砲を放ってきた。

続けて、ダダダッと乾いた銃声。

途端に、悲鳴をあげた大勢の人たちが、目の前で蜘蛛の子を散らしたように四方へと走り出す。

突然のことに、ひどく惑う。

駅にはロケット砲が打ち込まれ、炎が上がる。

建物の影に隠れて、ぶるぶると怯える姿が見える。

はっと我にかえると、警官が突然、私に向かって棍棒を振りあげている。

嘘だろ。

逃げるしかない。

悲鳴が響き渡る人波に紛れ、懸命に走る。

皆、必死の形相だ

横目に地面を転がる人がいた。

警官に髪を掴まれ、路上を引きずり回されている男がいた。

殴られた男が頭をアスファルトに押し付けられ、後頭部に銃を突きつけられている。

女性が地面に跪き、泣き喚いている。

空を見上げ、嗚咽する老婆。

子供たちが頭を抱えて道端にうずくまっている。

泣き喚く子供の手を必死に引く母親。

なのに、なにもできない。

必死に逃げる。

殺されるのが怖いから。

銃声が怖いから。

 

動いて欲しい。

欧米諸国は少なからずの制裁に踏み切った。

にもかかわらず、この国の政府は静観を続けている。

あんな残虐な国軍との案件がそれほど大事なのか。

政府には国連大使の訴えが聞こえているのだろうか。

ミス・ミャンマーの流す涙が見えているのだろうか。

なぜ人々の悲しき咆哮が心に届かないのだろう。

人々が大勢血まみれになっている。

大勢の人が毎日のように殺されている。

市民たちが日々、いわれのない罪で死刑宣告を受けている。

もう、介入してもおかしくない事態がそこまで差し迫っている。

いつものお得意の、後手後手の誤手では許されない。

 

ああ、トランプは去ったというのに。

なのに、なぜ、世界には次から次へととんでもない指導者たちが現れてくるのだろう。

遠くで起きている現実は、ときどき心をひどく物憂くさせる。

2021年04月15日 16:19

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