ゆりの木動物病院|阪急庄内駅すぐ近く|大阪府豊中市

阪急宝塚線・庄内駅3分、犬・猫を診る動物病院です。

お目よごしですが・・・。

あっか〜ん! はよ道頓堀、行かなー!

仕事を終え、ラジコに耳を傾けた。
自転車を漕ぎながら、気が気でなかった。
いよいよか。
ほんまにアレか。
アレがとうとう現実のものになるんやな。
と、思ったら、岩崎が坂本にホームランを打たれた。
あっかーん。
甲子園の胴上げがなくなるぅ〜。
広島で胴上げすんのか……………。
と思ったが、さっすがは岩崎大魔神。
最後の打者を討ち取ったときには再びあっか〜んと涙腺崩壊。
涙がちょちょぎれて、とまらへん。

うそやないよな。
ほんまやよな。
岡田さんってほんまに名将なんやな。
このままサムライジャパンの監督も兼任したらどうやろ。
な、頼むで。
そんなかんなで「あっかーん」の連発。

とにかく、アレやアレや。
わし、どないしよ。
家に悠長に帰っとる場合やないな。
みんな、あそこに集まってんやろ。
な、そやろ。
みんな、道頓堀に集まってんやろ。
わしも一緒に喜びたいわ。
よっしゃ。自転車の向きを変えよ。
いっちょ、ママチャリで行ったるわ。

おっ、そやそや。
その前にあいつも呼んだらなあかんな。
一緒に喜び分かちあいたいやろしな。
で、思い出したように知り合いのあいつにTELをした。


「もしもしカーネル?」
「な、なんや」
「今どこ?」
「今どこって………突然なんやねん」
「またまたぁー。突然やあらへんやろ」
「ちょい待て。何が突然やあらへんの」
「ふん。しらばっくれやがって。お前、15年ぶりのアレやぞ」
「……………」
「なんで黙りこむねん」
「……………わし、そんなんどうでもええねん」
「なんでぇ」
「なんでぇって? あのなぁ、お前らええ加減にせえよ」
「だから、なんで?」
「なんでって……ええか、お前らはアレアレうるさいけどな、わしには関係あらへんことや」
「だから、なんで関係あらへんの?」
「なんでって、お前……………」
「みんな道頓堀であんさん待ってんで」
「待ってへん」
「あほか。みんな、キリンさんみたい首長うして、あんたの到来を待ってるわ」
「しらんもんはしらん」
「なにすっとぼけてんねん。知らへんわけないやろ。関西人がこんなめでたい日にあんたのこと思い出さんわけないやろ」
「……………」
「な、あんたかてほんまはわかっとるんやろ。タイガースにはサンダース。阪神優勝にはアンタが付きもんって」
「あほ。勝手に決めんな。ええか、さっきから黙って聞いてりゃ勝手なことばかりぬかしよって。ちぃーとはお前、こっちの身にもなれや」
「なっとるから電話してやっとるんやろ。あんたかてほんまは胴上げされたいとちゃうか」
「されたーない」
「なんでぇ?」
「なんでぇって、お前。わしはあんたらのおかげで24年もあんなきったな〜い川に沈められとったんやで」
「汚いってあんた、道頓堀に失礼や。最近、水質ちぃとはましになったらしいで。ほんま綺麗になったわ。大腸菌が薄うなったって」
「うそこけ」
「嘘あらへん。テレビでやっとった」
「そんでもいやや」
「なんや、道頓堀があかんのか。ほな、淀川にしよ」
「川うんぬんの問題とちゃう」
「ほな、どない問題や。あんたは嫌がるけど、天下の淀川で、胴上げドッボーンされたら幸せやでぇ」
「幸せちゃうわ。だから、そない問題やあらへんのや」
「ほな、どない問題や」
「ま、その人権的な問題というか………」
「こら、サンダース! お前、人形のくせして偉そうに人権人権言うな」
「……………」
「だいたいな、あんときはバースに似てるから、胴上げついでに川に放りなげられただけや。今はバースおらへんぞ。誰もあんたを投げへんわ」
「そないか?」
「そりゃそうや。みんなで一緒にアレを祝うだけやろ。ほんまはあんたもみんなと一緒に騒ぎたいやろ」
「うん。ほんまはな」
「な、そやろ」
「そやそや。そないやったら、行ってもええかな」
「ええよ。ええで。いこいこ」
「ほなわしもいくかな」
「よしゃ。決まった。そないなったら話が早いわ」
「よしゃ、決めた。いくいく。へへへ。実はわしな、なんだかんだいうて、もう白スーツばっちり決めて準備してんねん」
「さっすがー。ところで、お前、知っとるか?」
「何を?」
「いまはバースはおらへんけど、最近、ミエちゃんって子が入ったって」
「おう、あの子か。あの子、愛嬌があってかわいいな。わしは好っきやで。立派なムードメーカーや」
「お前さんも好きか。わしもや。よかった。ほんまよかったわ」
「そっか。そりゃ、みんなに好かれるって大事なことやもんな。わしもおんなじムードメーカーやさかい、あの子の気持ちようわかるわー」
「そっか。ほな、道頓堀いく前に、わし、あんたの顔、少しばかり黒く塗ったるわ。ミエちゃんにちょっとだけミエちゃうかも」
「ま、まさか……………」
「よしゃ、行こ。今、どこ。わし、ママチャリで迎えに行ったる。ピックアップして背負ってったるわ」
「……………」
「十三か、江坂か。梅田?」
「……………」
「ははーん、さては梅田やな。はよ言え。今、梅田のどこや」
「あかん、あかん、もうやめてくれ。もう二度とあんなんいやや」
「いやや言うな」
「いややいやや。お前ら、なんだかんだ言うて、わしを川に放り投げたいだけやろ」
「そんなことない。ついでや、ついで」
「嘘や。ついでとちゃう。頼むから、わしのことはもう金輪際忘れてくれ」
「あかん、あかん。みな、お前さんの登板をまちかまえてんねん。岩崎が締め括った後はお前さんしかおらへん」
「あかん、あかん。わしには関係あらへんねん。登板なんてしとうな〜い」
「ガタガタうるさいやっちゃな。覚悟決めぇ。だいたいな、阪神だけやなく、お前かて主役になれる唯一のときやぞ。じぃっと店の前でにこにこ突っ立ってるより、川底に沈んでニタニタ笑って横たわってる方がなんや画像的にはおもろいやろ」
「……………」
「何黙ってんねん。とにかくいくで。はよ言え。今、どこやねん」
「……………」
「おい。お〜い。カーネル? こらひげじじい!」 
「ぶちっ」
「おい、こら。なに切ってんねん。今度おうたら、自分、ほんまに土左衛門にしたるさかいなっ!」

ということで今回、念願の道頓堀あの人ダイブは見送りとなりました。
でもね、次はいよいよ、関西対決になるかも。
そうなったら、ほんま楽しみでんな。
お楽しみはそれまで待ちましょか。
で、そんときはみなでカーネルさんを迎えに行きましょう。
サ、サンダ〜ス!

こんなん書いたらKFCに怒られるかな……………。
2023年09月19日 17:49

親が知らない衝撃の事実

この前、息子の下宿先に行った妻から衝撃的なことを聞かされた。

「あの子、金髪になってん」
「えっ」

ほんまにバカ息子め。
なにやってんねん。
勉強もせんと遊び呆けてばっかか。
こっちはお前の学費払うためにあくせくしてんやぞ。
あかんな。
あかんあかん。
わかったって。
もうそれ以上言うな。
ああ、任せとけ。
わしががつんと言うたるわ。
ほんまにあいつは……………。

そう思ってた矢先、大学は試験シーズンに入ったとのこと。
息子から久しぶりに電話が入った。
なぜか受話器口の息子は半べそ状態だった。

「父さん、あかんわ」
「なにが」
「わし、ほんま試験落ちるかもしれへん。留年したらどないしよ」
「日頃からちゃんと勉強せえへんからや」
「しとったって」
「なに言うてん。遊んでばっかやって母さんから聞いたで」
「そないことない。ちゃんとやっとる」
「ほんまか。大学に入って、毎日弾けっぱなしやろ」
「弾けてへん。マジメにやっとる。こんな大まじめな学生、世の中どこにもおらへんわ」
「ふん。嘘つけ。ほな、あたま、金髪にしたっていうのはどないことや」
「いつの話してん。今、ピンクやで」
「………」

浪人の次は留年なのか。
悩みはいつまでたっても尽きない。
2023年07月20日 13:36

けっこうな大雨ですな……………。

台風2号が日本列島近くを掠めているらしい。
その影響で、梅雨前線が活発になっているとのこと。
ラジオを聴いていると、今日はこの話題ばかりだ。
大雨警報が出ているとか、避難指示が出されたとか。
どこかの地域では、学校が臨時休校になったそうで。

そっか。
それはそれで、子供達はきっと大喜びやろうな。
雨の日の学校ほど退屈な場所はないし。

そう思いながら、ふと外はどんなもんやと受付へ顔を出してみる。

あらま、ほんま。
思った以上の大雨。
どしゃぶりやんけ。
誰も歩いてへん。
いつもは忙しげな郵便局もガラガラ。
こちらも暇そう。

雨はアスファルトを襲うように叩き、弾け飛んだ雨粒が景色を白くぼかしている。
通り過ぎていく車は、まるで長靴履いた子供みたいに水飛沫をばしゃばしゃあげて。

よほどの病態でもない限り、今日は誰も来ないやろな。
雨はまだまだ強くなるらしいし。

気の良いスタッフが、「こんな日にしかできないことがあるので」とバックヤードへ消えていく。
日頃後回しにしてきた片付けをせっせとやってくれていた。

ありがたや、ありがたや。
スタッフの背中を拝むように手を合わせ、私はいそいそと診察室へ戻る。

さてさて。
診察室はいつになく静かで穏やかで。
窓越しに聞こえる雨音がせわしなさまでかき消した。
普段しない読書でもしよっか。
でも、気づくとうたた寝。

まあまあ。
こんなのんびり日も悪くない。
2023年06月02日 11:33

鏡よ、鏡……………。

春だ。
いよいよ狂犬病やフィラリアシーズンに突入。
なんだか慌ただしい日が続いている。
先日も、忙しさにテンパったのか、新人スタッフの一人がひどく手間取っていた。

いけないな。
このままでは慣れない仕事でストレスをためてしまう。
辛い思いをさせてはいけないいけない。
なんとか緊張をほぐさなきゃ。
すぐに頭を巡らせ、最大限のもてなしを考えつく。
「よし、あっち向いてホイでもしようや」
新人スタッフはなぜだか浮かない顔つきだ。
すごく困惑しとる。
「あ、あの…まあ、その…………遠慮させていただいてよろしいですか」

えっ、なんで。
なに遠慮してんねん。
君かて、あっち向いてホイしたいやろ?
えっ。したくない?
あのな、ええか。
これから一緒に仕事をしていく上でコミュニケーションはとっても大事なんやで。
あっち向いてホイでもしたら、きっと君もなんだか妙にうきうきと楽しくなって、仕事が長続きすると思んで。
な、わかるか?
「いやいや、そういうことじゃなくて……………」
​​​「いやいや、そういうことやろ」
長々とあっち向いてホイの効能を説明し続けていると、​​​​いつだって余計なことばかりしやがるツンドラが慌てて間に入ってきた。

「先生、トリマーさんが困っとるやないですか」
「なんで困んの? あっち向いてホイは楽しいで」
「楽しいとかそういうことやなくてですね……まあ正直なところ、先生がしたいだけでしょ」
「……………いや」
「ほら、嘘ばっか。顔に出てるやん」
「出てへん」
「もうええから」
「なんでええの?」
「ええから、私たちの邪魔せんといてください。忙しいんです」
「わしだけ邪険にすなよ……………」
「もう! あっち向いてホイくらい、鏡とやったらどうですか!」
そう言って、ツンドラは彼女を無理やり私から引き離した。

えっ?
どういうこと?
わしがあっち向いてホイをしたい?
この歳で?
そ、そんな、バカな……………。
な、なんで、バレたんやろ……………。

けんもほろろに突き返され、途方に暮れるも、いや待てよ。
もしかして、ひとりあっち向いてほーいも、案外おもろいかもしれんな。
だいたい、ひとり焼肉だって流行ってる時代や。

よし、ええこと聞いたわ。
ひとりで鏡とやったろ。
よしゃよしゃ。
ウキウキしながら一人、待合室のトイレに行き、大きな鏡と向き合う。

「では、おぬし、覚悟せえ」

鏡に映る自分に向かい、私は気合いを入れる。
おお、なんだか相手も妙に気合いが入ってんぞ。

ダハハ。
私が笑えば、あいつも笑う。

な、なんだ、てめえ。
てめえこそてめえ。

なんや。
お前こそ、なんやねん。

くそ、お前、わしを挑発してんな。
お、おまえやろ。

なんやアホみたいな顔しやがって。
それはお前や。

は? なんと、憎き奴め。
お前こそふざけた顔の、にっくき奴だ。
そこまで言うか。
言うとんのはお前や。
いちいち腹立つやっちゃな。
お前もじゃ。

なんやと。いつぞやの阪神みたいにボロボロになっても知らへんからな。
お前こそ、藤浪みたいにボコくそにされてもしらへんぞ。

鏡の中の、とってもとぉ〜ても見てくれの悪いあいつは、私に向かって、思いつく限りの言葉で罵ってきやがる。

くそ。
もう我慢できへん。
ほんならいくで。
じゃんけんポーン!
と声をあげたものの……。
どれだけ、繰り返しても『ホーイ』ができない。
何遍繰り返しても、あいこばっかや。

私は、鏡を前に呆然とする。
な、なんでや。
「ああ、鏡よ、鏡……………」
決まり文句を口ずさむ。

でも、鏡は何も言ってくれない。
それどころか、あいつはハアハア、息弾ませながら、わしを同じように見ておるだけや。

その代わり。
トイレの外から誰かが言う。
「ばーか」
お、おい……………。
だ、だれ?
ま、まさか、新人スタッフまで、わしのことを……………。
ツンドラだけでなく、あいつらまで?
えっ。
ま、まさかまさか。
そんなバナナ……………。

これは、ツツジ麗しき春の、ちょっと浮かれたお話です。
どうでしたか?
ほっこりしていただければ、これ幸いです。
誰がすねん!
2023年04月24日 17:23

わはは、春じゃ春じゃ! 行ったれ行ったれどこまでも!

桜が満開。
心地よい春風を受けながら、自転車を漕ぐ。
花粉症の人たちには申し訳ないけれど、やっぱり春は気持ちがいい。

春といえば、もう一つ。
別れと始まりの季節。
卒業の後は、何があろうと桜咲く。

今年もだ。
淡き薄桃の花びらを背に、新入社員や新入生の姿をあちこちで見かけた。
駅できょろきょろしている若者なんかを見かけると、思わず「よっ!」と肩を叩きたくなる。
春光相まり、すべてキラキラ。
春は、なにもかも清く新しく見えるから不思議だ。

今年は当院でも。
暖かい春風に誘われるように別れと出会いがやってきた。

三月、温暖さんが去る。
とても優秀な方で、すぐに仕事を覚えてくれた。
混乱するような状況でも、てきぱきと立ち回ってくれる姿は本当にありがたかった。
手放すのは残念だけど、当初より三年間との約束。
それを無理言って、四年も在籍していただいた。
今後はペットシッターとして独立を目指すとのこと。
こうなったらもう応援するしかない。
いい日旅立ち、頑張って!

そして新たな出会いは二人。
補充をどうしようかと悩んでいると、ふわりと春風に乗ってやってきた。
今は慣れないことだらけでいっぱいいっぱい。
でも、温暖さんに劣らず、二人とも感じのよい応対を心がけてくれる。
感謝感謝。
おかげで私は毎日、嬉々としている。

そして、もう一つ、新たな変化が……。

息子、旅立つ。
あがいてあがいた末、なんとか頭上に遅咲きの桜。
第一希望でなかったが、そんなこと、まったく大事なことやない。
その目で何をみるか。
その手で何をするか。
たったそれだけの話や。
頑張った甲斐はあったのだと言い聞かせ、大阪からほんまの新世界へ送り出す。

そやそや。
これからや。
見るもの、触るもの、映るもの、全てが新しい。
めげることなく、とことん追いかけなはれ!

そう心の中で呟きながら、半ば新生活に浮かれ模様の息子を玄関から送り出す。
別れの余韻を胸に秘め、一人、近くの桜並木に出かけた。
池のほとり、桜の下でベンチに腰掛け、イヤホンでラジコを聴く。

偶然か。

DJが新生活を始める人に向けてエールを送った。
流れだした曲は、関取花さんの「むすめ」。
うちんとこは「むすめ」やなくて「むすこ」やけど、流れ続けるアコースティカルな歌詞に心が震えた。
気づくと、「そやな、そやな」と耳を澄ましていた。

そうそう。
ほんまにそやで。
息子よ。
わしも、歌詞のごとくエール吐き捨てたる。

学べ、学べ、とことん学びやがれ!
やりたいこと、好きなこととことんやってみなはれ!

とにかく。
新天地で自分なりの基盤を築いてくれることを切に祈る。

さあさあ。
送り出してるだけやあかんな。
わしも新年度を迎えよう。
いまさら若い子みたいに、ぎらぎらの野心持って、何かとんでもなく大きな夢を見ることはできないけど、こんなおっさんだって、ちょっとした一歩くらいは踏み出せる。

そう思って、威勢よく立ち上がると、道端で、すこーん。

こけた。

まあ、そんなもんよ。
春のはじめの一歩なんて、そんなもん、そんなもん。
こけたら、ええやん。
こけたってええねん。
呼吸整え、また立ちやがれ。
松下幸之助さんだって「こけたら、立ちなはれ」言うとったしな。

そやろ、そやろ。
たったそれだけの話やろ。

はる、春、ハル。
春、晴れ渡れ、ハレルーヤ!
まばゆい春光浴び、些細な失敗を屁とも思わず、どいつもこいつも、あんたもわしも、それがどこの「むすめ」だろうと「むすこ」やろうと、今日も明日もわしらは生きたるだけや!

せやせや。
 
2023年04月04日 14:24

帰省と生せんべい

年末から正月にかけて、母親が腰椎を骨折し、寝たきりだったらしい。
コロナ禍はいまだ終息しておらず、子に心配かけまいと思って黙っていたようだ。
後で事情を聞いて慌てた。

祝日を利用して、久しぶりに帰省する。

片道、高速を利用し、車で二時間半。
母親は思ったよりも元気そうだった。
腰はだいぶ曲がっていたが、コルセットを巻き、しっかり歩いている。
とりあえずひと安心。

でもな。
二人ともずいぶんと老け、私が知っている頃の両親ではなかった。
ほったらかしにしていたことを後悔。
まだ先だと思い込んでいた介護、そろそろ目前のこととして捉えねばいけないのだろう。

反省の帰省がてら、デパートによって息子の好きな土産を購入。
同じものを職場にも持って帰る。
「生せんべい」という大変ローカルな土産も加えた。
私が小さかった頃、これが家にあると大変嬉しかった超ローカルなおやつだ。

職場に持ってくると、見たこともない食べ物にスタッフたちがもの珍しそう顔をした。
ふにゃふにゃ。
どうみても煎餅とは思われない代物を前に、彼女たちは怪訝そうである。
「これ、ほんまにせんべいですか?」
毒でも食わされるとでも思っているのか、つんつんと指先でつついている。
お、おまえら………。

でも、ま、そやろな。
明らかにせんべいちゃうしな。
関西で見たこともないやろ
それくらちょっと変わった食いもんやしな。
わしが小さい頃はな、これがあると………。

おい、こら、人の話聞け。
やめろ、そのつんつん。
へんな触り方すな。
毒ちゃうぞ。
ふん。
とりあえず食ってから文句言え。

鼻息荒く、一人、昼食を食べに外に出る。

昼食後、職場に戻り、口にあったかどうか聞いてみた。
へえ。
素直に「はい」だって。
肯定的な意見に少なからず驚く。
まあ、お世辞でも嬉しいなと思っていたら、どうやらそれどころではなかったらしい。
たった三十分ほどの間に、インターネットでさっそく家族の分までポチったとのこと。
大変気に入ってもらえたようで、結構な驚きだった。

ローカルフードが関西人に認められるなんて。
やっぱりうまいものはうまいのだ。
よしよし。

たまには帰ってみるもんである。

 
2023年02月24日 14:32

おひさしぶりでございます

お久しぶりでございます。

長らくご無沙汰しておりました。
来院された方々から時折「あんた、ブログ更新せえへんの」と促されたりもしましたが、サボタージュ癖はどうにも抜けへん。

思い返せば………。
あれは、昨年夏やったかな。
どこでかかったかコロナに罹患し、三日間発熱で苦しんだあげく、その後は見事なまでに快活人間へと変貌を成し遂げたものの、心は他人に決して打ち明けられない後遺症に冒されたかのごとく「ああブログ書くのめんどくせえな」と思い続けてしまい、そのまま、ずるずると更新せずにきてしまいました。

だはは。
そんなんコロナのせいじゃねぇし。
いいわけや、い・い・わ・け。
なぁーんて、いいわけしていいわけ?

まぁ、何事も長続きする人間ではないので、当然といえば当然。
あっちに興味が向けばひょこひょこあっちへ出向き、そっちへ興味がわけば、ほいほいと尻尾を振ってそっちへ走っていってしまう。
おまけにどうせ書いてもくだらんことことしか思いつかへんし。
更新しようがしまいが、まあどうってことないわ———とまたまた言い訳言い訳。

何事においても万事こんな調子。
ひとつのことに固執することなく、「まぁ、えっか」と簡単に開き直ってしまう己の性格にいままで幾度と愛想をつかしたものか。
お猿の次郎ちゃん並みにテーブルに手ついて、度々反省繰り返してきてものの、いつになっても劇的変化は訪れず。
気づくと人生後半折り返し。
「この不精な性格はぜったい一生治らへん。そんなん確実やんか」
かなりの確信を持つようになってきた。

そう。
ぼくちん、諦めちゃったの………。

そやそや。
直らんもんは直らへん!

ということで今年は開き直りの年として、ポジティブに頑張っていこうと考えて思います。
何事もポジティブに、ポジティブに。

で、今年は何に挑戦しよっ。
と、まずは小学校のとき覚えれへんかったそろばん、勉強始めちゃいました!
いつまで続くか分かりまへんが、時間を見つけてこっそり数珠玉弾いてます!

以上、我なりの意志表明として、ポジティブにポジティブに。
何卒、今年もよろしくお願いいたします。

 
2023年01月26日 15:16

うそっ、鶴屋八幡さんって…。

ちょっと前の休日。
千里中央の本屋へ行った。

ついでだ。
久しぶりにデパートの地下街へと足をのばす。

御座候が食べたくなったから…。
あの、姫路が生んだ、うまくて安い回転焼きを…。
へへへ。

さらについでだ。
隣の551蓬莱にも顔を出す。
息子の好きな豚まんも購入しよっ…。

と思った途端、ふと病院の近所に住む90代のおばあちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。
そういや、あのおばあちゃん、和菓子が好きだと言ってたな…。

この頃、おばあちゃん、元気がない。
私と会うたびに「私な、体は元気やけど、最近耳が遠くなって困ってるんよ」。
いつもそう言って愚痴をこぼす。

会話も耳元だ。
けど、同じことを何度言っても、なかなかこちらの発言は伝わらない。
聞き取れず、おばあさんはなんだかもどかしそう。

そりゃ、元気も出んわな。
だって、去年までは聞こえんでもええことまで、よう聞こえてはったもん。
そんなおばあさん、このごろ、ほんまに山口さんちのツトムくんみたいにみえる・・・。

あかんあかん。
こんなたとえ、若い人にはわからへんな…。

ま、ええわ。
よし、決めた。
和菓子でも買ってたろ。
551やめや。

で、何にしようかな。
歩きながら、いくつかの和菓子屋店舗の商品を見比べていると、鶴屋八幡の店員さんに声をかけられた。

「何をお探しですか?」
「日持ちして、あんこで美味しそうなやつ」
「なら、これなんかええんとちゃいます?」
と指さして教えてもらったのは、鶴屋八幡のもなか。

「美味しいですよ。うちのは百楽って言います」

おお。
これならええやん。
わしも食いたいし。
じゃ、ちょうだいするわ。
別々の袋にいれてくれる?

って後日、百楽持って、おばあちゃんのところへ。

「これ、いります?」
「何、それ」
私の手にある白い袋を見て、おばあさんは首をかしげた。
「もなかです」
「はあ?」

聞こえんか。
すんません。
じゃ、失礼して、耳元で声を張り上げまっせ。

「も・な・か」

その途端、おばあさんの顔が急に明るくなった。
「先生、ありがとな。わたしな、これ大好きやねん」
「そうですか。よかったよかった」

袋ごと渡しながら、昨日初めて知ったことをふと口にした。
「そういや、鶴屋八幡さんの本店って、今堀にあるんですね」
「へ?」
「今堀」
「はあ?」
「僕、八幡っていうくらいだから滋賀の近江八幡に本店があるもんだと勝手に思ってました」
「はあ?」

そう言った途端、おばあさんの眉がわずかにグネっと歪んだようにみえた。
なんだか怪訝そうだ。

聞こえんのかな。
よし。
もう一回、声を張り上げたろ。

「鶴屋さんの本店って今堀にあるんですね」

耳元に近づき、マスク越しから声を張り上げる。

でも、おばあさんの顔は曇ったまま。
口をぐっと閉じ、押し黙ったまま、つぶらな瞳でこちらをじっと疑い深そうに見ている。

まだ聞こえんかいな。
しゃーないな。

「今堀が本店ですって」
私はもう一度繰り返した。

「嘘やろ」
「いいえ」
「ほんまか?」
「ほんまですって」
「そなアホな…」
そう呟くと、また口を閉じた。
明らかに疑っている目だった。
なんでそんな疑うの?
「ほんまですって。今堀が本店ですって」
「はあ? そんなんぜったい嘘やわ…」
「いいえ、店員さんがそう言ってましたもん」

おばあさんは、しばし黙りこむ。
こちらを見る目は、なんとも言えない、悲しさも混じっているようにも見えた。

「…ほんまか? ほんまにほんまか」
「はい。ほんまです」
私はもう一度うなづく。
「へえ。そうなんか…」
そういうと、おばあさんはうつむき、ポツリと地面に吐き捨てるように、つぶやいた。
「本店、ナポリやったんか…」
えっ。
驚いた私をよそに、おばあさんはくるりと私に背を向ける。
「わたし、知らへんかったわ…」

そう言い残すと、袋を抱えて私からさっさと離れていく。
「ちょ、ちょっと待って…」

慌てて小さな丸まった背中に声をかけるも、私に訂正する暇もくれない。
おばあさんはそのままサンダルを土間で脱ぎ捨てると、逃げるようにそそくさと家の中へ入っていってしまった。

あかん。
どうしよ。
私は否定することもできず、しばらく道端に呆然と佇むしかなかった。

ほんま、どうしよ。
わし、いらんこと言ってもうた…。

帰り道、なんとも言えない気持ちを抱えたまま。
反省しながら、自転車で夜道を急ぐ。

途中、セブンイレブンの前を通りすぎると、店の前で、イタリアンフェアと書かれた幟の文字が大きく踊っていた。

ま、まさか…。
ああ、わかっているさ。

いくら天下のセブンイレブンでもそんな都合の良いことを私とおばあさんのためにしてくれるはずはなかろう。

だってだ。
鶴屋八幡だぞ。
イタリアンフェアにあるわけなかろう…。

だってナポリじゃないもん。
今堀だもん。
そうだもん。
和菓子だもん。

そうわかってはいても、どうしても否定したくなる。
あかん。
もう、気になって気になってしゃーないわ。

自転車で何度もぐるぐる店の前を行き来を繰り返し、やっぱり決めた。
寄ったろ。

鍵をかけ、レジを通り過ぎ、イタリアンフェアの棚を探した。

そして、なんと。

おおおおっ。
あるやん。
嘘やろ。
あるぞ…。
鶴屋八幡の百楽がこんなイタリア軍団のど真ん中に…。

……んなことあるわけないないということを、嫌というほど何度も何度もしかと確認して、渋々ため息つきながら店を後にしました。

さすが天下のセブンイレブン。
嘘つかねぇな。

で、私は…。
あれからもおばあさんと気まずいまま。
おばあさんは私の姿を見ると、ニコッと悲しげな笑みを浮かべ、そそくさ、スタスタ逃げていく。

その丸まった背中に向かって「待って!」と声を張り上げるもおばあさんには届かない。

もはや私の声は聞こえないのだろうか。
それとも聞きたくないだけなのだろうか。

なんとか誤解を解きたいのだけど…。
そう願って、はや一ヶ月近く経ちました。

今日もです。
「おばあさん! ちょっと!」

声をかけても、おばあさんは聞こえないふりをして、サンダルで、スタスタスタと逃げていく。

皆様、気付いていられたでしょうか。
実は、最近、毎日毎日、こんな熱い熱いやりとりが、当院の近くで繰り返されていたことを・・・。
今年は、とりわけバカみたいに暑い暑いバトルの夏となりそうです。
もう熱中症で頭がほんまのバカバカになりそうです。

願わくば、おばあちゃんがまえみたいに戻ってくれへんやろか。
おばあちゃんの耳が、半年前みたいに、また聞こえんでもええことまでちゃんと聞こえるようになってくれへんやろうか。
そうなったらどんなにありがたいか。

でも無理やろうな。
それなら、鶴屋八幡さんで構いませんわ。
どうか本店をナポリに変えてください。
じゃないと私、もう、ほんまに頭がどうかなってしまいそうです。
ぱかぱか言うてます。

ま、どちらも無理だとわかってはおりますけどね…。
へへ。

 
2022年06月30日 14:42

さらば、金色ウィークよ

さらば、金色ウィークよ。
あーばよ。

なーんちっち。
連休も終わり、普段の日常が始まりました。
皆様はいかがお過ごしでしたか。

今年は外出制限もなく、どこの行楽地も盛況だったよう。
中には海外旅行を選択された人もいたとのこと。

いいですな。
海外ですか。
私も行きたかったですな。
自分だったら、どこへ行ったかな。

やっぱモスクワかな。
だって、あの男にアントニオ猪木ばりのビンタを喰らわしてやりたいもん。

でも、そんなことできっこないよな。
あの人、人の命などなんとも思ってないから。
きっと、私ごときなど秒で抹殺だ。
ここに戻ってくるどころか、この世にも戻ってこれなくなる。

ならば、仕方ない。
この際、腹立たしい男への、感情任せの平手打ちはウィル・スミスにお任せして……って、あれ?
そういやぁ、あの人はあの人で、アカデミー賞から抹消されとったな。
おまけに、あれあれ?
熊本の方でも暴力沙汰で監督やコーチが現場から消されようとしてる。

なんかあっちこっちでバタバタしてるな…。
ほんま、地位の高い人が増長するとあかんね。
舵取りまちがえると、下が巻き込まれるもん。
下手すりゃ、沈没。
みーんな暗い海底へ沈んでしまうことになる。
あの小さな遊覧船みたいに。
悲しむ人が増えるだけ。
人間、傲慢になったらあかんな…。

と、学ぶべきことは学んで。
世の中よく見て、我がふりなおそっと。

で、話題を連休に戻す。
ニュースを見る限り、ゴールデンウィークはどこも混んでいた模様。
人混みを考えるとどこにも出かける気にならない。
それにお出かけはこの前の京都でじゅうぶん懲りた。

されど、ゴールデンウィーク。
何かしたい。
だって、連休中の入院がなかったので、今年は休みをしっかり取れる。

では何をしよっか。
せっかくの良い機会だ。
今までの人生をアーカイブ的に振り返ろう…って誰がするか、そないもん。

人生、振り返っても、いまさらムダ、ムダ。
くだらん時間が多すぎて、はなからやる気せん。
やーめた、やめたっと。
寝よ、寝よ。
と豊満な光に満ち溢れた近くの公園へ出向き、木陰の芝に百均で買ったビニールマットを敷いて、ふて寝を決め込む。

木陰で寝ては起きて、起きては寝て。
気が向いたら、時たま読書。
そんなんを繰り返し、夕方はただただ走る。

でも、実はこれが私にとって、とても素敵な時間の過ごし方でした。

世間は大抵、お出かけしてるため、普段込み合う公園も人がまばら。
散歩中の柴が、芝でじょじょじょっと小便してるくらい。
柴も芝も、なんだかとても気持ちよさそう。

天気は快晴。
草木は心地良さげに揺れている。
耳元で、かさこそと風のそよぐ音を聞きながら寝そべっていると、時間がとてもゆったりと流れていく。
まったりとして、なんとゴージャス…。

これ以上に、豊饒で有意義な時間な過ごし方はあるのだろうか。
平和ってほんまええな。
そう思いたくなるくらい、とても良い連休でした。
おかげで、いま私はとても満ち足りた気持ちです。

あとは、戦争さえ起きなければ、ほんとうに心が晴れ渡るのですが…。

でも、どうにもならんか。

ならば、えい。
なるがままよ。
目に映る嫌な映像は、とりあえず心の片隅にしまい込んで。

週が始まる。
気持ちを新たに。
さあさあ、前を向いて。

いざ、モスクワへ…。
って、ちゃうちゃう。

さ、働こ、働こ!
2022年05月08日 16:41

そうだ、京都へ行こう! でも、京都のどこ行こ?

4月中旬の日曜日。
とても天気が良かったので、朝早くから散歩に出かけた。

桜はだいぶ散り、あちこちに新緑が溢れ始めている。
気温は良。
風も心地よい。
なんと最高の日曜日。
気持ちが自然とうきうきしてくる。

歩いていると高架を走り去る電車が見えた。
晴天に駆け抜けるマルーンの車両がカッコよい。

そういや、電車に長いこと乗ってないな。
この数年、コロナのせいでどこにも行ってないもんな。
梅田にも出かけてないし。

もう、そろそろ頃合かもね。
三回目のワクチンも打ったし。
思い切って、ちょっと遠出でもしてみよっか。
よし。

改札口に向かう。
でも、行きたい場所など特段ない。
切符売り場の上に掲げられた路線図を見上げ、ふむと思案する。
「さて、どこいくべ?」

すぐに答えが出てこなかった。
そんな時には、やっぱりあのフレーズ…。

「そうだ、京都へ行こう!」
目的地は乗車してから決めればいいさ。

乗り込んだ特急はなかなか混んでいた。
仕方なく通路を歩いて行くと、ありがたいことに四人掛けの通路側の座席がひとつぽつんと空いていた。

見れば、隣は20代くらいのお姉さん。
ラッキーじゃないか。

ネーちゃん、京都まで一緒にいこか。
でへへへ。

にやついた顔で彼女の横にスッと腰を下ろすも、発車して、すぐに異変に気づいた。

横のお姉さん、本を読みながら、休むことなく、こほん、こほんしてる。
小さな空咳をずっーと。
必死に堪えようとしているけれど、無理みたい。

かわいそうに。
ちょっと心配だな。
話しかけてみよっか。

あんた、花粉症か?
喉、痛いの? 
ふーん。
飴ちゃん、やろか?
これ?
りんご飴や。
ちがうって? そういうことを聞いているんじゃない?
溶けてる?
そりゃ、しゃーないわ。これ、だいぶ前からカバンに入ってるやつやもん…。
いつくらいから?
うーん、かれこれ三年くらいになるかな…。
いらない?
なんで?
いらないものはいらないから?
なんでぇ。
リンゴ、じゅうぶん熟成してんで。
いやだって? ねばっと包装袋にはりついてるって?
大丈夫、大丈夫。
食えるって。
え、いらん? 
遠慮せんでええって。
ほら、あーんしてみ。
ほれ、ほれ。

なーんて声かけたら、迷惑がられるだけでなく、ここにいる大勢の乗客を全員敵にするな。
その上で、わし、ぽいっと鉄道警察につまみ出される…。

あかん。
想像しただけで空恐ろしくなってきたわ。
とにかくあかん、あかん。
それだけはやめとこ。

じゃ、どない声かけよ。
どっしよっかなぁー。

私が悶々と悩んでいる間も、お姉ちゃん、ずっと隠すように小さな咳を続けている。
そして、はたと気づいた。

おい、待て。
それで、ここだけ席が空いていたのか…。
つまりは…空咳ゆえの空席。

あかん、あかん。
悠長にそんなダジャレを言うとる場合ちゃうわ。
わし、明日、仕事あんねん。
こんなとこで統計に現れない濃厚接触者になっとる場合ちゃうぞ。

急に怖くなってきて、席を立ち上がった。
とりあえず外気に触れよっと。

ありがたいことに次にきた準急は、乗客が少なかった。
緑の長椅子を独占するように腰をかけて思う。

やっぱり、コロナの見えない影に怯えている自分がまだいるんだな。
ということは、遠出するほどの心の準備がまだ自分にはできていないってことか。

かと言って、もう高槻。
次は上牧。

今さら帰る気にもならず、されど終着の河原町までいく気もならない。
はああ。
フレーズ頼みはこれだから困る。
「そうだ、京都に行こう」。でも、結局「京都のどこ行こ?」ってなるもん。

さてさて。
どうしたら良いものか。

乗客用の長椅子に一人ぽつんと取り残されたように座って考えてこんでいると、ふと前に「ごりやくさん」という番組で賀茂別雷神社の特集していたことを思い出した。
別名、上賀茂神社。
世界遺産だと言ってたな。
厳かな雰囲気の境内だった。
スマホで調べると、京都最古の神社で、雷の強い力で厄を祓う、有名な厄除けの神様らしい。

さすがだ。
なんだか急に、上賀茂から「カモ〜ン」と呼ばれている気がしてきたわ。

すぐにGoogleで行き方を検索し、烏丸で地下鉄に乗り換える。
降りた北大路の街並みを見て、びっくり。
とても整然としている。
京都ってこんなに広々としてたっけ。
普段から大阪のごちゃごちゃした街並みに慣れているせいか、まるで見当がつかない。
とりあえず道路脇にあった地上図を頼りに、賀茂川を目指す。

河川敷はのんびりしていた。
とてものどかだ。
堤防の並びには、風情あふれる住宅が続き、向こうには街を見下ろす山々が連なっている。
やはり盆地だな。
山が迫って見える。
なんてことを思いながら、北山大橋、北大路橋とくぐって、お目当ての御薗橋。

右手を見ると、目印の大きな赤い鳥居がみえた。
その向こうに綺麗な芝生が広がっている。

鳥居横では馬が数頭繋がれ、柵越しには観光客。
何かの催しのようだ。
掲示板に貼られたポスターを見ると、賀茂競馬だって。
どうやらゴールデンウィークに開催される行事らしい。

ふーん。
その練習か。

そのまま鳥居をくぐって歩き続ける。
なんとなく来た道を振り返ると、鳥居の向こうからゾロゾロと厳かな正装の行列が現れた。

先頭には袴と白無垢の新郎新婦。
長い正装行列がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

前を歩く新郎新婦は神妙な顔つき。
緊張を隠せないでいる。
けれど、春の穏やかな日差しのおかげか、とても華ぎ幸せそう。
そんな二人の姿を眺め、私は新郎に我が身をふと重ねてみる。

君はまだ知らないんだな。
幸せが今だけと言うことを。

若人よ。
伝えておこう。
君の横を歩く、そのうるわしき新婦の真実を。
その白き角隠しの下にはね、本物のツノが生えているんだよ。

嘘じゃないさ。
本当さ。
流行りのフェイクなわけがない。

だって私は知っているんだ。
そのツノの怖さをね。
この身に突き刺さる痛みと言ったら、想像するだけで今も身震いしたくなるほどさ。

そうさ。
君も、日頃の行いには気をつけるが良い。
でないと、危険だ。

さあ、耳穴かっぽじって聞きな。

いずれ、君は餃子と一緒にホットプレートで踊り焼きにされる。
泣いてもダメだ。
喚いても無駄だ。
土下座したって許されやしない。
君は、熱き鉄板の上で、カンカン娘のようにひたすら踊り続けるしかない。
そんな慌てふためく君を見て、子供たちだって大喜びだ。

だはは。
めでたい、めでたい。

正装の行列を微笑ましく眺めながら、そそくさと行列に背中を向ける。
第二の鳥居をくぐり、境内に入ると「おっ、ここにも」
新郎新婦が、こっちにもあっちにも。

いるいる。
おるおる。

映像でも見た、有名な立砂の前では、白無垢に包まれた新婦を囲み、友人たちが記念撮影を行っていた。
ここでも、まだツノの存在を知らない新郎が、和やかな顔つきで、はしゃぐ新婦たちの姿を眺めている。

今日は、なんというハレの日なのだ。
いずれ快晴は曇天へと変わるというのに。
ひどい日には、土砂降りだ。
雷だって鳴り響く。
もうすぐおうちは落雷のドンチャン騒ぎだ。

いやいや、めでたい、めでたい。
さっ、いこ、いこ。

邪魔にならないように歩きながら、小さな祠を拝んで回る。
橋を渡り、楼門をくぐる。
本殿へと続く階段が見えた。
拝殿前には小さな列ができている。

では、順番待ちをして、祈祷。
しっかりとお祈りしておこっ。

なんとか頑張っていけますように。
ちゃんと生きていけますように。
世界が平和でありますように。

そして名残惜しそうに周囲を見渡しながら、拝殿場を後に。
そのまま階段を降りようとして、「えっ!」

階下へ出した右足が、スッと感触もなく抜けていった。
そのまま、ずでん。
石段から踏み外した右足が、ずるずると滑る。

気づけば、見事なまでに最上段の石畳に尻餅をついていた。
肘も強打。
頭は打たなかったけれど、滑り落ちた右足のせいで、自分でもびっくりするほど仰向けに倒れ込んでいた。

見上げた眼前には、とんでもなく澄み渡った青空。
青い。
青すぎる。
しばし、呆然。

驚いた祈祷客が寄ってきて、「大丈夫?」と声をかけてくれるも、こちらは恥ずかしだけ。
「大丈夫です。大丈夫です」
本当はお尻が痛くて仕方がなかったけれど、慌てて立ち上がるしかない。
お尻をパンパン払いながら、逃げるように階段を降りた。

はああ。
まさか拝殿前で尻餅つくとはね。
それも、見事なまでにすってんころりと。

なにが厄祓いじゃい。
大厄やないか。

神様に日頃の行いを見透かされたのだろうか。
今日は阪神と一緒に反省会だな。
気持ちがズドンと落ち込むのを覚えながら「早く帰ろ」と二の鳥居をくぐった。

芝では競馬の練習が始まっており、馬を鎮める乗り手たちの姿があった。
観光客が見守る中、一人の乗り手が暴馬から振り落とされるのが見えた。
放り出された男性が竹の柵に腰を強く打ち付け、痛そうに地面にうずくまっている。

きっとこの人も日頃の行いが悪いんだな…。
同類、憐れみの思い…。
ハハハ。
飯でも食お。

「昨日、賀茂別雷神社へ行ってきた」
「どこですか、それ」
「京都。世界遺産」
「へえ」
「そんでな、わし、コケた。拝殿前でびっくりするくらい見事に尻餅ついた」

翌日、神社でコケたことをスタッフにカミングアウトしてみた。

「わし、いよいよ神様に見放されたかもしれん」
「そんなことないですよ」
 温暖さんが慰めてくれる。
「神社にお尻をつけて、逆に運をつけてきたと思えばいいんですよ」
「おお、なるほど。そういう考え方もできるか。いやぁ、ありがとうありがとう」
気持ちが一気に立ち上がったのも束の間。
ツンドラ君が私のいたいけな心を粗雑に踏みにじってくる。
「へへ。なわけないっすよ。日頃の行いっすよ」
嬉しそうだ。
おかげで月曜から、また心がズドン。
抜け出せそうにない深いぬかるみへ、どっぷり沈み込んでいく。

お前、今度、暗闇で頭抱えてうずくまることになっても知らんからな。
ふん。

と、まあまあ。
でもまあね。
あれだよね。

外出にはまだ早かったということで。
軽はずみに「京都へ行こう」などと思ったのがいけなかったのだ。
他人はどうであれ、自分はまだ気持ちが追いついてなかったということ。
今度こそ本当に神様から見放されるかもしれん。

それよりも、とにかく。
日頃から行いだけはしっかりしておこ。
見直すべきは見直して。
そう学んだ、日帰り京都旅でありました。
2022年05月05日 22:02

ゆりの木動物病院

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