あっか〜ん! はよ道頓堀、行かなー!
仕事を終え、ラジコに耳を傾けた。自転車を漕ぎながら、気が気でなかった。
いよいよか。
ほんまにアレか。
アレがとうとう現実のものになるんやな。
と、思ったら、岩崎が坂本にホームランを打たれた。
あっかーん。
甲子園の胴上げがなくなるぅ〜。
広島で胴上げすんのか……………。
と思ったが、さっすがは岩崎大魔神。
最後の打者を討ち取ったときには再びあっか〜んと涙腺崩壊。
涙がちょちょぎれて、とまらへん。
うそやないよな。
ほんまやよな。
岡田さんってほんまに名将なんやな。
このままサムライジャパンの監督も兼任したらどうやろ。
な、頼むで。
そんなかんなで「あっかーん」の連発。
とにかく、アレやアレや。
わし、どないしよ。
家に悠長に帰っとる場合やないな。
みんな、あそこに集まってんやろ。
な、そやろ。
みんな、道頓堀に集まってんやろ。
よっしゃ。自転車の向きを変えよ。
いっちょ、ママチャリで行ったるわ。
おっ、そやそや。
その前にあいつも呼んだらなあかんな。
一緒に喜び分かちあいたいやろしな。
で、思い出したように知り合いのあいつにTELをした。
「もしもしカーネル?」
「な、なんや」
「今どこ?」
「今どこって………突然なんやねん」
「突然? ふん。しらばっくれやがって。お前、15年ぶりのアレやぞ」
「……………」
「な、なんで黙りこむねん」
「……………わし、そんなんどうでもええわ」
「なんで」
「あのなぁ、いちいち言わすな。ええ加減にせえよ」
「だから、なんで?」
「なんでって……。あのな、お前らはアレアレうるさいけど、わしにはまったく関係あらへんことやで」
「なんで関係あらへんの? みんな道頓堀であんさん待ってんで」
「待ってへん」
「あほ。みんな、キリンみたい首長うしとるわ」
「してへんしてへん」
「は? 関西人がこんなめでたい日にあんたのこと思い出さんわけないやろ」
「…………」
「あんたかてほんまはわかってんやろ。タイガースにはサンダース。阪神優勝にはカーネルが付きもんって」
「あほ。勝手に決めんな。ええか、さっきから黙って聞いてりゃ勝手なことばかりぬかしよって。ちぃーとはお前、こっちの身にもなれや」
「なっとるから電話したっとるんやないか。ほんまはあんたまた胴上げされたいとちゃうんか」
「されたーない」
「はあ?」
「はあって、ええ加減にせえよ。わしはお前らのおかげで24年もあんなきったな〜い川に沈められとったんや」
「なんや道頓堀に失礼な言い方やな。最近、水質ちぃとはましになったで。大腸菌が薄うなった」
「うそこけ」
「嘘あらへん。テレビでやっとった」
「そんでもいやや」
「ほな、淀川にしよか」
「川うんぬんの問題とちゃうわ」
「天下の淀川で、胴上げドッボーンされたら幸せやろ」
「幸せちゃうわ。だから、そない問題やあらへんのや」
「ほな、どない問題や」
「ま、その人権的な問題というか………」
「お前、人形のくせして偉そうに人権言うな」
「……………」
「だいたいな、あんときはバースに似てるから、胴上げついでに川に放りなげられただけやろ。今はバースおらへん。誰もあんたを投げへんわ」
「ほんまか?」
「ほんまや。みんな、あんたと一緒にアレを祝いたいだけや。あんたもみんなと一緒に騒ぎたいやろ」
「うん。ほんま言うとな」
「そやろそやろ」
「そないやったら行ってもええかな」
「ええよ。いこいこ」
「ほな、いくか」
「よしゃ。決まった」
「いくいく。へへへ。実はわしな、もう白スーツばっちり決めて準備してんねん」
「さっすがー。ところで、あんた、知っとるか?」
「何を?」
「最近、ミエちゃんって子が入ったって」
「おう、あの子か。あの子、愛嬌があってかわいいな。わしは好っきやで。立派なムードメーカーやもんな」
「お前さんも好きか。わしもや。よかったわ」
「わしもおんなじムードメーカーやさかい、あの子の気持ちようわかるでー」
「そっか。ほな、道頓堀いく前に、わし、あんたの顔、黒く塗ったるわ」
「なんで?
「ミエちゃんにちょっとだけミエちゃうかも」
「ま、まさか……………」
「よしゃ、行こ。今、どこや。わしがママチャリで迎えに行ったる。背負ってったるわ」
「……………」
「十三か、江坂か。もしかして梅田か?」
「……………」
「ははーん、さては梅田やな。今、梅田のどこや」
「あかん、あかん、もうやめてくれ。もう二度とあんなんいやや」
「いやや言うな」
「いやなもんはいやや。なんだかんだ言うて、わしを川に放り投げたいだけやろ」
「ついでや、ついで」
「ついでとちゃう。頼むから、わしのことはもう金輪際忘れてくれ」
「あかん。みんな、お前さんの登板をまちかまえてんねん。岩崎が締め括った後はお前さんしかおらへんやろ」
「二度と沈められたくないってわしは言うとんや」
「あーもうガタガタうるさいやっちゃな。覚悟決めぇ。だいたいな、お前かて主役になれる唯一のときやぞ。じぃっと店の前でにこにこ突っ立ってるより、川底に沈んでニタニタ笑って横たわってる方が画像的にはおもろいやろ。空気読め」
「……………」
「何黙ってんねん。とにかくいくで。はよ言え。今、どこやねん」
「……………」
「おい。お〜い。カーネル? こらひげじじい!」
ぶちっ。
「おい、こら。なに切ってんねん。今度おうたら、自分、ほんまに土左衛門にしたるさかいなっ!」
ということで今回、念願の道頓堀あの人ダイブは見送りとなりました。
でもね、次はいよいよ、関西対決になるかも。
そうなったら、ほんま楽しみでんな。
お楽しみはそれまで待ちましょか。
で、そんときはみなでカーネルさんを迎えに行きましょう。
サ、サンダ〜ス!
こんなん書いたらKFCに怒られるかな……………。
2023年09月19日 17:49