俺史上最高のゴールって・・・。
「父さん」帰宅して食卓につくなり、息子がにやにやと声をかけてきた。
「どうした?」
「聞きたい?」
息子はほんまにうれしそうな顔をしている。こんなときの息子は最高にアホそうだ。
どうせたいしたことではないだろうから、あまり聞きたくはない。
が、どれだけくだらん話題かは興味はある。
「まあ、聞きたいかもしれない…」
息子がよしゃといわんばかりの表情を浮かべた。
「あのな、今日な、俺、俺史上最高のゴールを決めた」
「お前史上最高のゴールか…」
やはりアホ話そうだ…。
「試合で決めたのか?」
「違う。練習だよ、練習」
「お前な、試合で決めて喜べよ」
「いいから聞けって」
「聞くけどさ、お前、二か月まえ位にも俺史上最高のゴールを練習で決めたよな」
「あれよりすごい。あれは胸トラップしてからボレーでダイレクトに決めただけ。あんなんよりもっとすごい」
「アジア杯で李忠成が決めた矢のようなボレーか?」
「あれよりすごい」
「まさかクリロナの弾丸よりすごいシュートか?」
「もしかしたら超えたかもしれない」
そんなわけねえだろ。
最近アホを通り越して、おバカの壁に到達しつつあるようだ。
でもかわいそうなので、「そうか。それはすごいな」と適当に相槌を打つ。
「どんなんか教えてやろうか」
「おお、教えてくれ」
新聞に目を通したいのを我慢して言う。
「あのな。どんなシュートだったかというとだな」
「なんだ?」
「大空翼のドライブシュートに日向小次郎のタイガーショットを混ぜたようなすごいシュートだ」
「・・・」
いよいよ、おバカ圏内に突入した模様。
息子は胸を張って、自慢げ。
はああ。
このどあほが。
「キックした瞬間な。ゴール上にすごい勢いで飛んでいって、ああ~外したと思ったら、急にキュルキュルってドライブがかかってぎゅんって落ちたんだよ。そしたら、そのままネットにぐさりと突き刺さってさ。そのままギュルギュルと回転してネットに突き刺さっていて、しばらくしてようやく下にぽとんと落ちたんだよ」
「そうか…。それはすごいな。一分くらいネットに突き刺さったまま回転していたんだな」
「一分もないわ。からかうな」
「ごめん。ごめん」
「とにかくすごかったんだから」
「練習でだろ」
「いいだろ。練習だって」
「そうだな…」
「とにかくすげえんだって」
「わかった、わかった」
息子はうれしそう。
俺史上最高のゴールか…。
ほんま、はぁ~あやな。
そんな息子も受験生。
くだらん話を自慢げに話す前に、はやく大学受験に本腰を入れてもらいたいものだと思っていたら、最近友達との間でも受験の話題がでてきているようだ。
少しずつ目の色が変わってきた感もする。
先日も机に座り、勉強している。
一生懸命じゃないか。
後ろから覗くと、きれいなパンフレットを並べてあれやこれやと眺めている息子がいた。
いよいよ、こんなあほでも、行きたい大学のパンフレットを集めだしたんだな。
良かった良かった。
そう思って「どこの大学へ行くつもりだ」と肩に手を置いて背中ごしに覗くと、机に並べられたパンフレットは全部予備校のものだった。
「大学……じゃないのか?」
「そうや。予備校」
「・・・」
「父さん、どこもな、授業内容がすげえ充実してるわ。ほんま予備校ってすごいな」
「・・・」
「父さんはどこの予備校がいいと思う?」
【お前な……】
残念だが、父はどこの予備校がいいかはあまり考えたくはない。
わかるかなあ、この気持ち。
わかんねえだろうな~。
息子よ、どうせならこちらで俺史上最高のゴールを決めてくれんもんかね。
そしてさらには人生においても俺史上最高のゴールを決めてくれたら父はうれしいぞ。
まあ、でもな。
そんな願いをしても無駄やな。
大体、私自身、いまだ人生最高のゴールを決めたことがない。
そんな親の息子に過度な期待をしても仕方あるまい。
だってトンビがタカを生むわけじゃないし。
そうそう。
それよりも、こうやって楽しく笑っていられるだけでも幸せ…。
そう思った方がたぶん幸せ。
そう、たぶん。
2020年09月07日 14:56