阪急電車アナザーストーリー
「ちょっと聞いてくださいよ」
朝、病院に来るなり、ツンドラさんがおかしそうに話しかけてくる。
「どうしたの?」
「昨日の帰りの電車で、受験生と乗り合わせたんですよ」
「それがどうしたん?」
「その女子中学生たちの会話がもうおかしくておかしくて…」
ツンドラさんによれば、どうやらそれは私立高校の受験帰りらしい。
女の子三人組の会話のようだ。
まとめるとこんな具合。
A「なあなあ、試験どうやった?」
B「難しかった…」
C「私も…」
A「そうなん。私はまあまあできた気がする」
C「ええ~。いいなあ」
B「なあなあ。ところであの社会の答えってなに?北欧のやつ」
C「あれ、リアス式海岸でしょ」
A「ええ、違うよ」
B「そうやよなぁ。あれ、フィヨルドやよなぁ」
C「ああ、フィヨルドか。そういや、習ったなぁ。私、間違えちゃった」
A「えっ。ほんまに。ほんまにフィヨルドなん…」
B「そうやで。フィヨルドや」
A「えっ、ほんまにほんま?」
B「そうやで。リアス式海岸ちゃうよ」
A「えっ、私、リアス式なんて書かへん。ちがうの書いた…」
B「何て書いたん?」
A「マリフ×ナ」
B・C「えっ…」
A「私、自信もって書いたんたんだけど。そっか…違うんだぁ」
B・C「・・・」
A「ちょっと、あんたら、なんで、そんな顔して私を見んの」
B「いや、だって…」
A「だってってなに?」
C「だから…あんた、それ‥‥絶対書いちゃあかんやつやで」
A「えっ、書いちゃあかんやつ? なにそれ。じゃ、マ×ファナって一体なんなん?」
B・C「だから、ぜったい書いちゃあかんやつ。使ってもあかんやつ」
A「えっ、使っちゃあかんやつ? ちょっと待って。なによ、それ。教えてよ」
B・C「だから‥‥使ってあかんやつやて。こんなとこで言えへん」
A「ちょっと待ってよ。なんでマリ◇ァナって言っちゃあかんの?」
B・C「もうっ。○○ちゃん、大声ださんといて」
A「なんで、なんで。ちょっと二人とも教えてよ。マリファ☆って一体なんなん?」
B「だからこんなとこで大声ださんといて。絶対それ、大声で言っちゃあかんやつなんやからっ!」
C「そうやで。誘われても興味本位で買っちゃあかんって学校で習ったやん」
A「えっ、なにそれ。言っても書いても使っても買ってもあかんやつってなに? 私、なにやらかしたん?」
Aさんはますます混乱し、「なんで?なんで?」と騒ぎだし、BさんもCさんも大慌てだったらしい。
聞きながら、ツンドラを含め、乗り合わせた人たちも俯いて、必死で笑いをこらえていたようだ。
そんな、視線をそらしている乗客の反応がことさらおかしくて、ツンドラはほんまどうしようか困ったとのこと。
そりゃ、そうやろな。
こんなおもろいことあるかい。
乗り合わせたあんたらだけやないで。
きっと採点者も赤ペン片手に、おもろうておもろうて笑い転げてたやろな。
採点後のビール、格別にうまかったやろう。
ワシやったら、ぜったい花丸やるな。
ああ、羨ましい。
わしも一緒に乗り合わせたかったな。
こうやって人は誤りを学んでいくのだと思うと、ほんまおかしくてたまらんな。
ほんま使わなければええんやで。知らんで口に出すくらいは罪やあらへん。
ほんま阪急電車はええで。
いつ乗っても、なんかええからな。