あのぉー、緊急ですけど診てもらえますかっ!
「あのぉー、緊急ですけど診てもらえますかっ!」緊迫した声が受話器から漏れてきた。
看護師のツンドラが「どうされましたか?」と受話器に向かって聞いている。
思わず時計を見た。
この時間からか……………。
時間はすでに18時55分。
もう営業終了間近だ。
今日は残業か……………。
ツンドラには申し訳ないが、でも緊急なら致し方ないわな。
一人そんなことを思いながら、ツンドラの応対に耳を澄ませていた。
「ああ、そうですか。二、三日前からおしっこがまったく出てないんですね?」
「えっ。そ、そんなに頻繁にトイレに行ってるんですか! でもまったく出ない……………」
「今はぐったりしてる……………」
ツンドラが受話器に耳を当てたまま、こちらを見た。
尿道閉塞なら放置できんわな。
このところひどく疲れることが多かったので、ほんまは早く帰りたい。
だが、仕方ないわな。
ツンドラの、こちらを問う目線に力無く頷き返す。
ツンドラが薬棚に目線を戻し、受話器に急いで向かってまた話し出す。
「では、急いで来てください。今からどれくらいで来られそうですか?」
「そうですか。車で10分くらい……………」
だが、このあたりからなにやら電話応対の様子がおかしくなる。
ツンドラが受話器に向かって必死に住所の説明をしだした。
「あの、どの辺り? 当院は初めてですか?」
「では、えっと、当院はヤマダ電気の近くですね…………」
どうやら初めて当院に来る方らしい。
だが、聞いていると、やはりなにか様子がおかしい。
ツンドラがまだごちゃごちゃと説明を続けている。
「ええっと、ですからヤマダ電機の近くです。176号線にあるヤマダ電機………」
ツンドラが困ったように言葉を詰まらせた。
「ええっとですね。……………では、庄内駅はわかりますか」
ちょっとした間があり、ツンドラの目線が泳ぎ出した。
「ええっと、だから、そのですね、山形ではなくて、豊中市の庄内で…………」
「豊中市って、どこって言われても……………。だから、池田市と大阪市の間にある豊中市です」
「だから、あの、ええっと、あの、住所言いますね。大阪府豊中市庄内東……………」
と言って、声が途切れた。
「……………あの、すみません。もっとお近くの動物病院にあたられた方が良いと思います」
ツンドラが受話器を置き、けらけら笑い出した。こちらを見て、にやにやしてる。
「なんやねん」
「間違い電話です。千葉の同名の動物病院に電話をかけたそうです」
「どないこと?」
「ゆりの木で検索したら、うちが出たんじゃないですか。インターネットだと、ボタン押したら勝手に電話してくれるじゃないですか」
「……………」
ふう。
危ないとこやった。
下手したら明日の朝まで、いつ来るかわからぬ患者が来院するのを待たねばならぬとこだった。
で、みなさまにもお願いです。
救急で慌てても、千葉県のゆりの木動物病院様には間違って電話をかけないでください。
受け取る側には、ちょっとしたホラーです。
大変な混乱を招きます。
くれぐれもご注意のほどを。
うふふ。
2026年05月26日 16:49