ゆりの木動物病院|阪急庄内駅すぐ近く|大阪府豊中市

阪急宝塚線・庄内駅3分、犬・猫を診る動物病院です。

お目よごしですが・・・。

おおぶたこぶた。

最近、雨が多いです。
アジサイやタイサンボク、ヤマボウシ、夾竹桃の花々がとてもきれいです。
自転車での通勤途中、曇天にあちらこちらでひそやかに咲く花々に目を配りながら、今年は長い梅雨になりそうだなあ、と最近はなんとなく思っております。
ゲリラ豪雨にならなければいいのですが・・。
いつものことですが、夏生まれは暑さに強い。冬生まれは寒さに強い。
そんなことをよく聞きます。
が、本当に誕生月に暑さや寒さへの耐久性や好みが関係しているのでしょうか。
そんなの嘘やん。
いつも私は思っています。
なぜって私は六月生まれです。
でも、梅雨はあまり好きではありません。
じめじめとした暑さには毎年辟易するほどです。
ということで私に関しては、生まれ月と季節の好みに関するこの方程式は成り立たないようです。
まあ、そんなことはどうでもいいことです。
さて、それはさておき、さてさてさて。
先日のことです。
かなりの大雨でその日は患者さんの来院がほとんどなく、たまにはこんな日もいいね、とスタッフ一同気を休めておりました。
時間もあったので、お菓子好きの私が普段から用意してあるチョコレートやせんべいなどを食べながら、三人で談笑しておりますと、
ツンドラさんが
「やだ。先生また封を開けるんですか。そんなに食べたらコブタになります」
と平然とのたまいます。
「えっ?」
びっくりして彼女を見ると、
「違う、違う。おおぶたになるですね」
えっ。
ええぇ~。
いま、平然とひどいことを言っていませんか。
私をいよいよおおぶた呼ばわりするのですか。
思わず絶句していたら、彼女は「違いますよ。違います。安心してください。先生のことじゃありません。私のことです」
とパンツをはいた安村さんのような絶対的な自信ありげな表情で私に言います。
「ほんまか。ほんまに俺のことを言ったんじゃないな」
と疑いの目で、さらには念を押すように彼女を見つめて問いただすと、彼女はさらなる屈託のない笑顔を浮かべ、こういいました。
「だって先生の場合、フォアグラですから」
「・・・」
みなさん、どう思われますか?
そんなこと思ってても言いますか。
それとも私が言わせてしまっているのでしょうか。
これをなんといえばいいのでしょうか。
分かりません。
私にはさっぱり分かりません。
ただひとつだけお願いだけはさせてください。
ああ、雨よ。
願わくば、ひたひたと降り続けながら、彼女が繰り出す様々な言葉の毒も一緒に洗い流しておくれ。
そして願わくば、私の肝臓からもあふれ出した脂肪を流し切っておくれ。
六月生まれのこの私。
雨はすきになれそうにもありませんが、長くなりそうな雨空に、そうお願いしたい、そんな思いで先月はいっぱいでした。
 
2020年07月03日 16:56

どこのどなかた存じませぬが…

先日のこと。
診療中、バタバタしており、受付に誰もいない時がありました。
来院を知らせるピンポーンの音が鳴り響いているのに、一人は調剤、他は診療と手を離せず、「すみませ~ん。少しお待ちくださ~い」と声を上げるしか対応はできませんでした。
その間に、ピンポーンとまた鳴り、何も言わず帰られていく足音が…。
スタッフがようやく受付に戻ったころには誰もおらず。
その代わり、受付カウンターには四つ葉のクローバーがそっと置かれておりました。
どこのどなたか存じませぬが、スタッフ一同、うれしい気持ちになりました。
大事に押し花にしようとしております。
どうもありがとうございました。
2020年06月09日 14:36

息子の優しいマッサージ

疲れて家に帰ると、居間で息子がイヤホンをし、スマホを見ながらにやにやしている。
勉強もせず、何かよからぬものでも見ているのではないか、おまえ。
学校が休校だとしても、勉強もせず、自堕落な生活を送っているなんていけないぞ。
そんなのはぜったいよ~くないぞぉ。
ここは親として一度注意しておこう。へっへ。
【息子よ。今日もスマホばかりやってただろ。たまにはやるべきことをやりなさい】
「はぁ~ん」
【はぁ~ん? なんだ、その態度は
「えっ、聞こえないんだけど」
息子がイヤホンをしたまま、スマホから視線を上げ、不機嫌そうに私を見る。
なんという反抗的な目。
一瞬、戸惑う。
でも、ひるんでいる場合ではないぞ。
私にだって、父親としての威厳というものがある。
多少せき込みながら、頑張れと自分の心に言いきかせる。
そうだ、よし。
なんならスマホ以外のなにか他のことをさせてみよう。
【どうだ、息子よ。たまには父の肩でももんでみたらどうだ】
思いつくままに提案してみた。
息子は椅子に座ったまま怪訝そうな顔でなおも私を見ている。
イヤホンを一向に外そうとしない。
お前、私の声が聞こえないのか。
お前には親の思いが届かないのか。
いつからそんな息子になったのだ。
戸惑いながら私は息子の耳からイヤホンを外す。
そして中腰になり、真正面から息子の顔を覗き込むように向き合う。
【息子よ。どうだ。たまには】
「たまにはってなに?」
【だから、敬愛し、尊敬してやまない父の腰をたまにはマッサージでもしたらどうだ】
ふん。
バカにしたように鼻をならし、「あほくせ」と息子は私の手からイヤホンを奪いとった。
また耳にはめる。
「尊敬なんかしてねえし」
【えっ。嘘だろ。お前、照れてる場合か】
「照れてねえし」
【素直じゃないやつめ。正直にいえばよろし。もう一度言う。敬愛し、尊敬してやまない、感謝してもしきれない父親の肩をもめ】
「だから尊敬も敬愛も感謝もしてねえし。ほんま、うぜえな」
な、なんと。
なんという照れ屋なんだ。
素直に認めないなんて。
私もまけてはいられない。イヤホンをぐいと奪い返す。
「なんだよ。勉強の合間に音楽くらい聴いててもいいじゃんか」
【音楽ばっかは良くない】
「音楽ばっかじゃないし」
【じゃ、スマホばっかは良くないし】
「ばっかじゃねえし」
【どうだ。たまには父さんと相撲でもどうだ。で、お前が負けたら肩と腰をもめ】
「なんでだよ」
【なんでだと。当たり前だろ。どうだ、敬愛し、尊敬してやまない、感謝してもしきれない、その背中をいつまでも追い続けたいとどうしても思わせてしまう父親の腰をもめ】
「ああ、うっとうしいなあ」
【とうとうもむ気になったか。尊敬し、敬愛してやまない・・・】
「もう、わかったって。ほんまうぜえな。でも、条件があるから」
【なんだ?
父さんが負けたら、5千円くれよ」
【なに? なんで5千円もやらなければいけない】
「ははぁ~ん。もしかして俺に負けるのが怖いんだろ」
【挑発的な奴め。お前、本気でこの偉大な父に勝てると思っているのか】
「なにが偉大だ。胃が大なだけだろ。だいたい父さんこそ俺に勝てると思ってんの?」
偉そうになりやがって。ああ、望むところだ。勝負だ。本気の勝負だ。
だいたい、お前が私に勝てるはずがない。
私を誰だと思っている。父親だぞ、父親。それも胃大じゃない方の偉大な。
お前なんて弱小だ。チキンだ。
ああ、弱小の弱小。キングオブチキンだ。
バンプオブチキンじゃないぞ。
ははは。
不敵に笑い返しながら、たがいに襟首をつかみあい、畳部屋へ移動。
ルールを決め、はっきょいのこった、の合図とともに組み合うと誓う。
中腰になる。
見合って見合ってのにらみ合い。
なんだ、その眼は。
私は許さんぞ。
ぐいと睨み返してやる。
ふん。
宣言は私が言おう。いくぞぉ。
はっきょおーいのこった。
と言ったとたん、息子が一気に突撃。
ふっと目の前で沈み込んで私の視界から消えたかと思ったら、太ももに強烈なタックルが。
布団が吹っ飛んだと思うより先に私がぶっ飛んだ。
気づくと秒殺。
畳に尻もちをつけられたあげく、そのまま息子は私に馬乗りになっている。
私の両手を太ももで締め付けるように馬乗りになった息子はどうだといわんばかりに大胆不敵に私を見下ろして笑っている。
やめろ。どけ。なにをする。
息子は重くて、身動きさえとれない。
足をバタバタするだけ。
息子はヒヒヒと嫌な笑みをうかべている。
「父さん、約束どおり5千円」
馬乗りになりながら、手を出してくる。
【わかった、わかった。やるからそこをどけ。余は苦しいぞ】
「ほんまにくれるな」
【偉大なる父に二言はない。だから早くどけ】
「ほんまに。ほんまにだな。ちゃんとくれるな」
【やるやる】
「そう言って、いつもごまかすだろ」
「しない。しない。たぶんしない」
畳の上で手足をバタバタさせながら、私は必死でいう。
「あっそ。そっちがそういう態度ならさ」
【態度?】
「父さん、お望みとおりマッサージしちゃるわ」
な、なんと。優しいじゃないか。
と思いきや、息子は私の胸に両手を重ねるように当ててきた。
何をする、息子よ。
息子は私を見下ろし、ギャハハと笑う。
どすどすどす。
違う、違う、それはちがーう。
マッサージはマッサージでもそれは心臓マッサージだ。
【おえ、おえっ。やめろ、息子よ。いいか、心臓マッサージは止まった心臓にするものだぞ】
「え~っ。止まってんじゃないの。黙ってな。いま動かしてやっから」
息子はヒヒヒと笑いながら、ドスドスドスを一向にやめてくれない。
へっへっへ。
にたにた笑いながら、ひたすら心臓マッサージを繰り返してくる。
私はただただ【おえおえおえ】
いずれ子は親を追い越すという。
どの親にも訪れる末路だ。
にしても早すぎる。
おまけに私の薄っぺらい財布から5千円もうばいやがって。
なんてひでえ末路なんだ。
もう挑発なんてするもんか。
心臓マッサージを受けながら、私は自分の心臓にそう誓いました。
ふん、だ。
 
2020年06月04日 21:25

リモートワークをしてみたい

あちこちでリモートワークという言葉を耳にする。
当院でも飼主さんから「リモートワークになりまして」と結構な頻度で聞くようになってきた。
へえ、そうですか。
仕事が捗り、おうち時間も取れるんですか。
話を聞いているとなかなか羨ましいなあと思えるようになってきた。
それどころか「テレワーク」「リモートワーク」と目の前でいわれると、なんだかこの人たちには憧れの仕事についているような神々しさやオーラを感じるような。
いいよな。羨ましいよなあ。
なんなら、私も一度くらいはこのフレーズを使ってみたいなあ。
で、そのためだけに「うちもテレワークの導入をしてみよっかなあ」と試しに言ってみた。
すると、
「へえ。先生、やれるもんならやってみてくださいよぉ~」
「へっへっ。ほーんと、どうやって動物病院がリモートワークを行うのか知りたいもんですなあ」
「いいんですかぁ~。私たちが病院に来なくても」
「私たち、一生来なくなるかもしれませんよ。えへっ、えへっ」
な、なんと。
やめてくれ、にこにこしながら、どこかの組関係者みたいな脅しは。
怖い。怖い。
少年のように純真な私が、本気でおろおろ戸惑う姿に、この人たちは嬉しそうに次々とかぶせてくる。
そんなに脅さなくても。
私はただ憧れのフレーズを一度言ってみたかっただけなんだ。
で、結局テレワーク導入は当院ではできないと悟ったのですが、なんだかさみしいので自分なりにリモートワークをしている自分を想像してみた。
まず起きる。
起きても、いままでのように慌てて家を飛び出す必要もないため、少しゆったりと朝食をとってみよう。
誰も作ってくれないから、自分でフレンチトーストでも作ってみよっかな。
おまけに目玉焼きとソーセージでもつけちゃおうかなぁ。紅茶なんて優雅だな。
朝食を作り終えてテーブルにひとり着席。
いつものように隅から隅まで新聞5紙をめくり、時代の進捗を確認しながら、フレンチトーストを食べていると、やがて「ちょっと邪魔」という言葉が聞こえ始める。
聞き流していると「もうっ」と嫌がらせのように足元へ、掃除機のヘッドがびゅんびゅんと飛んで来始める。
最初のうちはフレンチトーストを口にくわえ、キングカズ並みの軽やかなステップで掃除機ヘッドを交わしているも、だんだん威圧が強くなり、立ち上がってトイレに向かう。
便座に座り、ゆったりと快便にため息をついていると、今度は「早く出ろ」と息子がドアをどんどん叩いてくる。
ここにも居場所がないのかと舌打ちをしながら、仕方なくいそいそとトイレをでる。
「ほんま邪魔やな」
背中にひどい捨て台詞を浴び、次はどこにいようかと廊下で立ち尽くして考えてみる。
そうだ、天気がいいからべランダで日向ぼっこでもしよう。
でも、ただの日向ぼっこではつまらないから、コロナ予防に紫外線による全身消毒としよう。
着ている服の両裾からまっすぐ物干しざおを通し、そのまま自分ごと物干しにぶらさがっていよう。
ぶらんぶらんと風に揺られながら、消毒がてら日向ぼっこなんて素敵じゃないか。
きらめく日差しに当たりながら、ぶらんぶらんして一人にこにこ幸せな自分時間を過ごしていると、まただ。
「邪魔っ!!そんなに場所をとって。大事な洗濯ものを干せないでしょ」
とここでもお叱りの言葉を受ける。
やがて裾に通した物干しざおのせいで、動きたくても動けないまま、一方的に布団たたきでお尻をビシバシビシバシしばかれはじめ、ここもとうとう本当に出ていかざるをなくなる。
かといって不要不急の外出はできない。
となると、最終的には、いつもの自分の居場所、そう、押し入れに閉じこもるしかない。
考えてみれば、テレワークどころか、むなしさしか感じない、いつもの休日の過ごし方と同じではないか。
フェイクニュースが多い昨今、テレワークで家庭の空気が悪くなる、という報道だけはこりゃたしかだな。
休日にいつも思うことだが、中年男性のおうち時間は悲惨である。
 
2020年05月23日 19:07

OK,Google

AIの進歩はすごい。
テレビを見ていて、いつも感嘆する。
で、もうだいぶ前になるが、スマートスピーカーの宣伝が苛烈化しだしたころ、「電気をつけて」というだけで部屋のライトがつく光景に感銘し、私も病院用に導入をしました。
「OK、Google。ラジオをつけて」
と言えば、スマートスピーカーはラジコからお目当てのラジオ局を流してくれるのだが、「電気をつけて」と言っても一向に電気はつかない。
スピーカー前で中腰になり、必死で「OK、Google。電気をつけて」と繰り返していたら、こういう世界に詳しいスタッフが「先生、スマート家電じゃないと言うことは聞いてくれませんよ」とやんわりと教えてくれ、赤っ恥をかいた。
そうか、開業当時にそういうことも考えておくべきだったのか。
でも、予算なんてなかったしな。
今ではあきらめているけれど、でも「OK、○○」というフレーズはいまだにとても気に入っている。
それだけで、すべての世界が一段と利便良くなると思うと、胸が高鳴る気がする。
で、最近も思い出したようにこの「OK」フレーズを口にしてみるのだが、問題もある。
たとえば、
「OK、ツンドラ。入院室の電気をつけて」
などと言おうものなら、「もうっ!」という黒毛和牛のような鳴き声が聞こえたかと思うと、ティラノザウルスのようなドシドシとした足音が床に響き、そしてようやく電気がともるのだ。
それどころか、虫の居所が悪ければ、数日は口もきいてもらえない危険性を今後はらんでくることになるだろう。
どこの職場でも、人間関係を円滑に営む上で、このような、おっさんと若い女性スタッフとのハラハラドキドキする一発触発のやりとりを繰り返しながら、今後AIの導入が必要不可欠となってくることだろう。
当院も、ジェネレーションギャップが生み出す職場クライシスを早々に乗り切るため、この喫緊の課題改善を図らなければならないはずだ。
ただ予算が・・。
2020年05月13日 19:07

誘惑からのびっくり戸惑いスキップ

GW前の時期は本当に気持ちがいい。
通勤時、レンゲが咲いて、公園では白や紫のツツジが満開で、軒先ではコデマリやオオデマリの花がとてもかわいくて。
風にのって鼻腔を柔らかにくすぐるレンゲの芳香。
あたたかな、明るい陽射しと新緑。
あちこちで反射する光がきらきらと踊ってみえる。
自転車に乗っているだけでなんだか気分がウキウキ、ルンルン。
でもなあ。
季節はこんなに素晴らしいのに、仕事がら、日中、外に出る機会はほとんどない。
朝早く病院に来ては、休む暇もなく、帰るころにはお外は真っ暗。
もろん外出自粛ムードもあいまってのことだけど、外の新鮮な空気に接することができるのは朝の通勤と夜の帰宅時だけ。
こんな素晴らしい時期なのに。
なんだかもったいないような、少しもどかしいような。
こんな素晴らしき初夏なのに。
なんだか、悪いショッカーに囲まれたような運の悪さというか、そんなような。
ああ、散歩したい。ママチャリでサイクリングしたい。
そんな思いが張り詰めだした、ゴールデンウィーク間近のこと。
GW前の繁忙のせいか、日々患者さんたちの応対に目まぐるしく時間が過ぎていき、営業を終わるころにはへとへと。
スタッフもかなりぐったりとしている。
ツンドラは一人シフトが続いたせいか、目をまん丸に見開き、口はぽかん。息は絶え絶え。
まるで死んだサンマのような表情。
いや、そんなことを言ったら年頃の彼女に悪い。
まるでゾンビのよう・・・。
とてもじゃないが、見ていられない。
たまには早く帰してあげよう。
優しくて素敵でとても渋い私。
ある程度メドがついた時点で、「いいよ、もう帰りな。悪い大人には気をつけるんだ、べいびー」といつものように彼女をドア向こうに送り出し、あとは一人後片付けを黙々。
終えるともうかなりの夜闇になっていた。
外にでると、街頭の照らす通りには本当に人っ子一人いない。
外出自粛のせいか、どの店もシャッターを下ろし、通りはびっくりするほどシーンと静まりかえっている。
ほんの一か月前までにはこんなことはなかった。
都会のせいか、深夜だろうと、だれかかしら通りを歩き、電気のともった民家からは物音が聞こえていた。
時には酔っ払いが電信柱で用を済ましていたり、自販機の前では若い子たちがウンコ座りで話し込んでいたり。
それが。
今では本当に誰もいない。
なんだろう、この夜の静けさは。
じりじりと自販機が動く音だけが響いている。
黄色い街灯が真っ黒な路地をやんわりとドーナツ状に照らし、静まりかえる夜闇に自転車のスタンドをかちんと外す音がこだましていく。
自転車にまたぐ。
空気がじわっと生ぬるく、包み込まれる体に不思議な感覚が走る。
路地をもう一度見回す。
電信柱が等間隔に並ぶ夜の通りには、やっぱり誰もいない。
パーキングに一台車が止まっているだけ。
やはりしんと静まり返っている。
こんな静まり返った夜の庄内を見たことがない。
なんだかすぐに帰るのがもったいないような。
少し歩こうか。
自転車を郵便局前に止め、天竺川までの坂道まで歩く。
自分の小さな足音が、しーんとした闇の中に、かすかに、そしてひそかに響き渡る。
振り返ると、そこはまた静寂。人っ子一人いない。
夜という時間が、じっと止まっている。
そして暗い物陰から何者かが、じぃ~っと息をひそめてこちらを見ているような。
こんな庄内を見たことも感じたこともない。
不思議だった。
まただ。
いままでなかった感覚が心の中で巻き上がってきた。
これが誘惑というものだろうか。
だめだ。
悪い誘惑がおじさんの私にむかってひたひた、ひたひたと近づいてくる。
近づいてきたら、くすくす、くすくすと脇の下をくすぐってくる。
もうっ。
やめろ。やめてくれ。
我慢できないって。だから、やめろ。
やめてくれって。
でも誘惑は許してくれない。
スキップがしたいだろう。なあ、したいだろう。
ああ、したい、したい。
湧き上がる誘惑が心の中で砂塵のごとくざわっと一気に巻き上がっていく。
静まり返った夜の通り。
夜の街をスキップしたい。
だめだ。
ぼくちん、覚醒した誘惑にはもう勝てない。
恐る恐る。
一歩二歩。スキップ、スキップ、スキップ。
ああ。
やっぱり。
楽しい。
スキップは楽しい。
スピードを上げる。足音のリズムが闇の静寂にすっとしみこんでいく。
うひゃひゃ。なんじゃこりゃ。
スキップひとつでこんなに楽しく、うきうきなれるなんて。
そんな人間はいまどき、私か、5歳児くらいなものだろう。
そのまま、クリーニング屋を過ぎ、喫茶店、居酒屋、郵便局、どんどん通過していく。
さあ、いざ病院前へ。
真っ暗な、生ぬるい空気が全身にまとわりつき、本当に不思議な感覚だ。
うひゃひゃ。なんだ、こりゃこりゃこりゃ。
町はどうなっているのだろう。
にぎやかだった駅周辺はどうなっているのだろう。
商店街は?
誰もいない静かな通りを一人、もっともっと満喫したい。
うひょひょ。行け、行け。
このままスキップで街中まで行ってしまえ。
勢いをつけたまま、中華屋の前を大きく手を振り振り、スキップ。
ヤマダ電機の看板が前にずんと立ちはだかり、目の前の信号は赤。
よし。ならば、そのまま176を曲がってしまえ。
と、思ったのが運のつき。
曲がった瞬間、ラップのようなだぶだぶの恰好をした若いカップルの姿が目の前に立ちはだかる。
ぶつかりそうになり、そのまま避けるようにスキップで交わした。
立ち止まった二人が「えっ」。
目を見開いて、きょとん。
そのまま点となった目で私を見る。
途端に湧き上がる恥ずかしさ。
いい年こいて、こんなことをするから。
でも止まれない。
恥辱のあまり、逃げるように私はスキップを加速させた。
後ろから弾けたような笑い声。
「嘘だろ」「まじか」
静まりかえった夜の街に、若い二人の声が広がっていく。
逃げろ、逃げるんだ。
スキップをやめ、そのまま、小走りに変える。この場を必死でしのぐのだ。
とてもじゃないが、駅まで行けない。商店街まで無理だ。交番なんてやばいだろ。
難題が多すぎる。
私は、信金横の路地で止まり、後ろをぜえぜえと振り返る。
二人の姿はもうない。176は暗く、しんと静まりかえっている。
車も走ってない。信号だけが煌々と黒々としたアスファルトを照らしている。
もうやめよう。
愚かなことはもうやめよう。
そう思い、裏道へ入る。
一本奥の路地に入り、病院の方へとぼとぼと歩き出す。
ありがたい。
路地は笑っていない。しんと静まりかえって、意気消沈した私を黙って受け入れてくれている。
じっとりとした闇が、恥辱にまみれた私の心を慰めてくれているようだ。
ほっとした。
ありがとう、ありがとう。
気を取り直して、とぼとぼ病院の方まで歩いていくと、なんてこった、パンナコッタ。
困ったもんだ、みのもんた。
有料パーキング前の自販機横に、悪夢の光景が。
街灯がじんわりと照らすアスファルト。
さきほどのラッパーカップルがどかっと地面に胡坐をかき、たばこをふかしている。
なんという、居心地の悪さ。
さあ、どうしよう。
仕方がない。何事もなかったのだ。
だんまりを決めよう。あの子たちだって、さっきの変質者が私だとは気づかないかもしれない。
下を向いて、さっさと前を通り過ぎてしまえ。
と思ったが、少しやんちゃで悪そうな彼と彼女は、下を向いて、いそいそと前を通り過ぎる私をそんなに優しく見過ごしてはくれなかった。
「あれ、さっきのおっさんちゃう」
「まじで。あのスキップしてたやつ」
「ぎゃはは」
途端に顔面が真っ赤になる。
「おっさん、なにやってんねん」
「ええ歳こいてアホやろ」
「ぎゃはは。ぎゃはは」
何も言い返せない私は、そのまま夜道を全力で郵便局まで走る。
自転車にまたぎ、そのまま逃げるように夜の道を必死で堤防をこぎまくる。
昔からわかっていた。
天性の愚かさを身にまとった人間が持つ、哀れさというものを。
ああ、スキップなんて幼少のころまでに卒業しておけばよかった。
いい年をこいてする行為では絶対にないんだ。
この世で許されるのはあの人だけ。
この年齢でスキップを許されるのは、現世にきっと川田アナだけだろう。
私みたいなみにくいアヒルはもうしてはいけない。
二度としない。
夜、誰もいない道を泣きそうになりながら、ペダルを必死に漕ぎ、私はそう心に誓いをたてたのであります。
言っておきますが、ペダルはペダルでも、これは泣き虫ペダルの話ではありません。
ですので、よいおとなのみなさまは、マナーをまもって、ぜったいにマネをしないでくださいね。
2020年05月04日 11:28

兄さん、あきまへんがな

お元気でっか、兄さん。
そっちは、どないや?
えーえー、ぼちぼちでんな。
元気でやっとります。
分かってまんがな、兄さん。
兄さんとは盃交わして、契りあった仲です。
いまでも兄さんには頭上がりません。
なんせ、昔かわいがってもらった一番弟ですからなあ。
分かってます。えらいすんません。
だから正直に言わしてもらいます。
前から兄さんが来阪されていること、ちゃんと知ってました。
そりゃもう、世界中に顔が知られた兄さんのこと。
来阪されてること、色んな筋から耳にしてました。
が、なんせ時期が時期でっしゃろ。
わしかて兄さんのもとへ飛んで行きたい思うたかて、行けませんのや。
なんでって。
だって、兄さん、外出自粛になっておりますがな。
えーえー。
本来なら、あそこでっしゃろ。
ほら、兄さんのお気に入り。
北新地のラウンジでっか。いや、ミナミのバーでしたか。
わしかてあんなきれいな姐さんがぎょーさんおるとこへ行きたいけど、だからまあ、そのなんというか。
分かってやってください。
勘弁してやってください。
えーえー、おっしゃる通りですわ。
わし、今、堅気ですねん。
ちゃんと真面目に働いてまんねん。
今のこの身じゃ、兄さんのもとへは行けやしませんのや。
そりゃなあ、兄さん。
わし、兄さんのほんまの怖さ、そこらのやつらより百倍しってますからな。
だってわし、昔、いっぱい勉強させてもらいましたもん。
そんなん痛いほど分かってます。
でもなぁ、兄さん。
今回ばかりは、少しばかりやりすぎですわ。
ここらの連中、みんな参ってますもん。
中には、アホもおりまっせ。
兄さんをバックに、ちんぴらまがいに粋がってな、自粛規制になっても夜に町をぷらぷら出歩いて、あげくにごほごほ人前でマスクもせずに咳して、怖い兄さんをあっちこっちにじゃんじゃんばらまいていってな。
でもな、兄さん。
たいていの人間はそうじゃありませんのや。
ほんまこまってまんねん。
医療従事者なんか、ほんまもうへとへとらしいです。
仕事なくなった人もおります。
せっかくの入学式を台無しにした子供たちもいっぱいおります。
ええ、ええ。
見てまっせ。知ってまっせ。
テレビや新聞で何度も最近の兄さんの顔をとくと拝見させてもらいました。
ほんまえらい変わられましたな、兄さん。
わしが知ってる兄さんとはずいぶんちゃいました。
ありゃ、電子顕微鏡でとられた指名手配写真でっか。
顔、でこぼこですやん。
ほんまえらい悪い人相してはりましたわ。
あんなん見せられたら、誰だってビビります。
おまけにCOVID-19なんてわけわからんコード名のようなもんまで付けられて。
ほんま、なにやらかしてまんねん。
せっかくやからもう少し言わせてもらいますけど、大変な思いをしてんのはなにも大阪だけやありませんのやで。
東京なんかもう、えらいこっちゃですわ。
地方だって、「うちんとこまで来んどって」って、みんな怖がってます。
日本どころか、世界中どこもかしもこ疲弊しまくって、ロンドンもパリもニューヨークもモスクワも、もうそりゃえらい無茶苦茶ですわ。
もう昔の兄さんやありませんでぇ。
悪いけど、今回ばかりは勘弁してくださいな。
兄さん。わし、やっぱり会いに行きません。
わしかて、守らなければいけないやつらがおりまんねん。
分かってくれまっか。
まだ分かってくれんのですか。
ええかげんにしなはれ。
みんな怒ってるんや。
町では咳をしている人間を兄さん持ちかてみんな疑ってます。
ほんま疑心暗鬼ですわ。
いいでっか。
わしらをこれ以上、怒らせたら、いくら兄さんとは言え、ただではおられませんで。
えーえー。あほなわしにはあんな怖い兄さんを一人で相手にはできやせんことくらいわかってます。
でもな、兄さん。
この世界には優秀な人材が山ほどおりまんねん。
あっちこっちの優れた研究者やら医療関係者やらが、今も兄さんをやっつけるために日夜寝ずに努力してるはずですわ。
今にみときなはれ。
みんな、兄さんの首を今か今かと狙ろうとりますからな。
そんときはいよいよですわ。
覚悟しなはれ。
胸に手ぇ当てて大反省しなはれ。
わしかてですよ、大した人間ではありませんけど、これだけは言わせてもらいます。
うちのネコちゃん、わんちゃんたちにまで手を出したら、黙っとりませんで。
新薬さえできたら、兄さんのその汚い顔やケツにむかって、こんなぶっ太い注射針、ぶっすぶっすと刺したりますねん。
ハハハ。
楽しみでんな。
わし、兄さんが好きだったセーラームーンの恰好してな。
月にかわってお仕置きよ、とばかりにバンバンあんたのケツに新薬打ったりますわ。
そんときばかりは覚悟した方がよいでっせ。
いくら強気なあんさんかて、バイバイキーンとばかりに退散するはめになるやろ。
ハハハ、バカにせんといてください。
負けませんで。
やったりますわ。
まあ、わしかて相変わらずの微力ですがな。
でもな、残念ながら無力じゃありませんのや。
そういうことですがな。
では、そんときまで再会は待っときましょ。
ほんじゃ、兄さん。
いまかいまかと、せいぜい首あろうてまっとってくださいな。
ほんまそんときが楽しみでんな。
ほな、さいなら。
2020年04月15日 17:51

春うらら。

春である。
ほんの少し前にモクレンの花が散り始め、ユキヤナギの可憐な白い小花が鈴なりに咲き乱れはじめたと思っていたら、もう桜が満開。
樹々の新緑だって勢いよく芽吹き始めた。
もはや本当に春である。
でも、今年は閉塞したような疲弊したような空気がじんわりと漂っている気がする。
それでもなあ。
マスク姿で歩いていても、やはり春の明るさとあたたかさには自然と心が踊る。
どんなに閉塞していても、我が心さえ晴れやかに保てば、春はやはり気持ちがよくてとてもさわやかな季節なんだと思う。
で、そう。
だいぶ前から。
春になったら、と思っていた。
今年こそは、と思っていた。
出過ぎたおなかをひっこめたい。腰痛だってやわらげたい。
まばゆいばかりの日差しの中で、大地を走り、時には跳ね、宙を舞いたい。
そして腹筋をばきばきに鍛え、ライザップなんて言わず、あわよくば五輪代表を狙ってみよう。
だって目標は大きく持った方がいいから。
人間、できないことなんてなにもない。
って長友さんや本田さんが言っていた。
でもねぇ、あ~ら残念。
だって今年はウィルスがねえ。
外出さえ控えた方がよろしそうで。
ほんと~にざ~んねん。
そうはいってもなぁ。
何もしないのもいやだしなぁ。
やっぱり春だから、独りひそかに何かを始めよう。
気持ちが閉塞するのはいやだし。
とういうことで、とりあえず、先日の昼時間を利用しての病院の片隅。
前から気になっていた太極拳を始めてみた。
錆びついた身体にストレッチ効果もあって、とても良さそうな気がしていた。
でも、習ったことはない。
とりあえず自己流でいこう。
なんだっていい。
何事も始めることが大事なんだから。
人の目なんて気にせず、年齢なんて気にせず、恥ずかしいと思わずに。
そう。続けることが何よりも大事なんだ。
そしていずれ、あの香港の映画スターのように拳法マスターになろう。
あんな風に、優雅に、可憐に、蝶のごとく舞いながら、見えない敵をやっつけよう。
そう念じて息を大きく吐いてみる。
手足の先まで神経をいきわたらせ、流れるようにゆっくりと動く。
体を前にだし、えいっと両手をしならせる。
そのまま一本足になって、左腕を上に、そして右手拳を前へ突き出し、どりゃ。
結構きつい。だんだんと汗がにじむ。
でも、動ける。こんなおっさんでも。
なかなか俺もやるじゃないか。
そう、人間なんだってできるんだ。
ここで、そろそろ本気を出してみよう。
あの超人的な必殺技。成龍拳を繰り出してみるか。
おりゃ。続けてこれはどうだ。どりゃ。
お次は酔拳。
だって私は可憐な酔っ払い。
頬を真っ赤に染め、ぐねぐねと千鳥足で宙を舞ってあげる。
そのまま相手の喉仏めがけて拳をあちょー。
ほとばしる汗。
水滴が頬を伝う。つながっていく。
汗は小さな流れとして大地を伝い、みるみると水田を潤していき、目の前の敵までをぐぼぐぼと飲み込む。
そのまま大河となれ。敵とくんずほぐれつとなってあの大海まで流れつづけろ。
そうだ、宙を舞え!! 跳ねろ!! 声を出せ!! 
もう気づいているだろう。
お前が何者なのか。
そう。
お前の名はジャッキー。
またの名をチェーン。
危ないチェーン! よけろチェーン!! 
チェーン カァームバァ~ック!!
あちょー。
気づくとスタッフたちがいぶかしそう・・・。
冷え冷えと、醒めた四つの瞳が、じぃ~っと私を見ている。
ツンドラ「この人、大丈夫かしら」
温暖  「春は少し気がふれた人が出るから」
ツンドラ「そうね。最近このテの男の人多いし」
温暖  「だってこの人、前からその気があったでしょ」
ツンドラ「そうそう。あったあった」
幻聴でしょうか。
いいえ、違います。
彼女たちの視線がすべてを物語っています。
無言の二人の会話がびしばしと冷たい瞳の奥から聞こえてくるのです。
なんとも言えないこの思いはなんでしょう。
心の中で恥ずかしさと情けなさが混ざり合っています。
年甲斐もないとはこういうことなのでしょうか。
はい、そうです。
人間、なんでもできるなんて、人によっては迷言。
やがて私の奥底から悲しみがふつふつと湧きたってきて。
この思いを誰かに伝えることができるなら・・・。
人は、場所と時期を考えて、行動をすべきものだと伝えたい。
それが春というもの。なぜって、あなた、おかしな人って思われたくないでしょ。
だって春はうららなんだから。
人生はうららなんだから。
あのきれいな宝塚の女性は怜美うらら。
あの山本リンダさんだってさえ、うらら、うららぁ、うらららぁっと言っていた。
そのまま続けて「うらうらでぇ~」と言っていた。
確かにそう言っていた。
言っていた・・・。
言っていた・・・・。
言っていた・・・・・。
 
2020年04月01日 13:00

三年目の決意表明!! いざ病院名称変更へ!

今月20日をもちまして、当院も三年目を迎えることができました。
皆様方のおかげだとつくづく感謝の念にたえません。
今後とも、当院におきましては、開業時の新鮮な気持ちを維持したまま、さらなる努力を続けていきたいと思います。
そこで心新たに、動物病院名を「ゆりの木動物病院」から「チャウチャウ動物病院」へ変更していこうかと考えております。
心機一転のこの決意に関し、病院内でもスタッフとたくさんの議論を重ねました。
私   「心機一転、チャウチャウ動物病院へ変えようと思う」
ツンドラ「あかんやろ」
温暖  「あかんと思います」
私   「チャウチャウええやん」
ツンドラ「チャウチャウって。私、前から思ってたけどな。あんた、ほんまあほちゃうか」
温暖  「ほんまのあほちゃうかぁ~」
私   「ちゃうちゃう。俺、あほちゃうちゃう」
二人  「なら、なおさらチャウチャウあかんて。チャウチャウちゃうちゃう」
私   「なんでぇ~や。チャウチャウ最高やん!」
二人  「ちゃうちゃう。チャウチャウほんまちゃうちゃう!」
私   「いやや、チャウチャウやないといやや! な、チャウチャウにしよやっ」
二人  「そんなちゃうちゃう!チャウチャウちゃうって!!」
私   「チャウチャウっ!」
二人  「チャウチャウちゃうちゃう!チャウチャウチャウチャウって、あんたほんまのあほちゃう、ちゃうかぁ~!」
このような白熱の、喧々諤々とした、よくある落語的な激しい議論が私の脳内で6時間ほど交わさた挙句、結局満場一致で現状維持となりました。
とういうことで、地域の皆様方、今後とも現状維持の新生「ゆりの木動物病院」を末永くよろしくお願いいたします。
ちなみに来年もまた、この時期に同じ脳内議論を交わす予定でおります。
何卒、お付き合いのほどを。
2020年03月22日 12:46

おっちゃんと呼ばれて

いわゆる、おっちゃんと呼ばれ始めて、月日がだいぶ経つ。
犬の散歩中、小さな子供たちに「おじさ~ん」と言われるのは悪い気はしない・・・。
でもね、でもね。
だいぶ前、夜中、仕事から自転車で帰宅途中、警察の方に「そこのおじさん、止まりなさい」と停められた。
これで二回目だ。
相当、怪しく映るのだろうか。
そのころ、刑務所から脱走した大胆不敵な方が、盗んだバイクや自転車で大阪からあっちへこっちへ旅行がてら逃げ回っていたから、状況を考えればわからなくもない。
ようは、どこの誰からみても今の私は本当におじさん、ときには怪しく映るおっさんなんだろうな、ということ。
確か、初めて「おじさん」といわれたのは三十代前半のころだったっか。
今の仕事とはまったく関係がないが、ちょっとした縁があって、時間さえ合えば地方の小学生から高校生くらいまでの子供たちと交流し、写真を撮ったり、そこの施設や団体などについて小さな記事を寄せたり。
あの頃、悲しいことに若い女性には見向きもされなかったけれども、子供には抜群の人気があった。
で、そのころのこと。
いつも通り子供たちに囲まれた。
「うわ、このおじさん、字汚ったねえ」
【おじさん?
最初はだれのことかわからなかった。
が、周りを見回してもやはり大人は私だけ。
嫌な予感・・・。
案の定、子供たちは増長していき、束になってどんどん私を誹謗・中傷していく。
「なんだよ、これ」
「おっさん、デジタル写真、下手だなあ」
「うわあ、まじひでえ」
「もっとちゃんと俺たち撮ってよ」
「おっさん、ちゃんとかっこよくだよぉ~」
【おっ、お、お前らっ。俺をおっさんだとぉ~】
あまりにも目障りにまとわりつくので、子供たちをいつものごとく【こらぁ~】とおっかけまわしていた。
でもね。でもね・・。
私も子供のころ、十分ひどかった。
人のことなんて、とてもとても。
おこるなんて、とてもとても。
中学時代のバレーボール部。
へたくそだったが、サーブ練習だけはいつもまじめに練習した。
だって向こう岸の女子バレー部のコート。
ザビエルとあだ名された中年教師の、こちらに背中を向けた、そのさん然と輝く頭頂部が的としてあったから。
何よりもまぶしく光り輝く標的へ。
私は友人と競るように無回転サーブをひたすら打ちまくった。
そして当たったら、目をそらして。
くすくす素知らぬ顔で。
帰りにはジュースをおごりあっちゃったりして。
はたまた高校時代。
海への遠足だったか、課外実習だったか。
ふと見ると、港で、一人たたずむ担任教師が。
哀愁を漂わせた、とても無防備な背中だったので、背後から抜き足、差し足、忍び足で、そぉっと、そぉ~っと近づいて、その背中を思いっきり押して。
案の定、おっさんが海面をバシャバシャあがき、アップアップ。
「お前かっ!」
溺れかかった中年教師がコンクリートにしがみつき、全身ずぶぬれ、奇声を発し、鬼の形相で追いかけてきて。
こちらはげらげら笑いながら必死に逃げて回っていたっけ。
帰りのバス。
びしょぬれのため、先生は運転手から座席に座らしてもらえなかった。
ドア横のステップで、四十代のおっさんがまるで叱られた子供のように立たされたまま。
可哀そうに、ずっと手すりを握っていた。
それが可笑しくて可笑しくて。
またげらげら笑っていたら、相当頭にきたらしい。
バスガイドからマイクを奪い、「お前のことは二度と忘れないぞ。一生、忘れないいぞぉ、ぜぇ~ったい忘れないぞぉ」と延々とぶつぶつ。
恨みつらみをお経のように述べていた。
あの時、木魚があればもっと先生を楽しくしてあげたんだけどなぁ~♪。
それでも、あの人は・・・。
次の日には、普段通りに、まったく何事もなかったかのように接してくれた。
愛すべきおっちゃんだったと思う。
今頃、どうしているのだろう。
あの、他の教師から相当の酒好きといわれた、哀愁漂う小さな教師の背中を時々思い出しながら、私は今も三十代のころと同じことを考えている。
あんな寛大なおっちゃんに、今の私はなれているだろうか。
なれるものならば、と思う。
あんな、気の優しくておもろいおっちゃんになっていたい。
本当にそんなんでいい。
ささやかな望みではあるけれど、それはそれで今の私には本望だ。
 
2020年03月18日 19:58

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