ゆりの木動物病院|阪急庄内駅すぐ近く|大阪府豊中市

阪急宝塚線・庄内駅3分、犬・猫を診る動物病院です。

お目よごしですが・・・。

あこがれのボスの憧れの国

ラジオを聞いていたら、DJが早口で言った。
「皆さ~ん。お待ちかねで~す。ブルース・スプリングスティーンの最新アルバムが配信されましたよ~」。

よっ。
いよいよですか。
ボス。
待ってましたよ。

遠い昔、ボスと呼ばれたあの人は、憧れだった。
私にとってあこがれのアメリカを代表する憧れの歌手で、それはそれは、もう本当にまばゆいばかりの存在で…。

今と違ってネットもなく、家庭にテレビも複数台なかった時代。
ぎゅうぎゅう詰めの、ひどく狭い教室で話題になるのは、いつもテレビの人気番組。
ド田舎の中学校だったから、テレビではやる曲や話題以外、大きなトピックはない。
あの頃、世間では、なめんなよの学ラン猫がはやり、歌番組ではチェッカーズやCCBの曲が毎日うんざりするほど流れていた。
級友たちは、毎日飽きもせず、だれだれのレコードを買っただとか、あの人かっこいいよねとか、そんな話題で盛り上がっていた。
いったいギザギザハートの何がいいんだ。
ロマンチックが止まらないって、なんやねん。
ギンギラギンにさりげなく、ってどんな俺のやり方や。
ふん。
ほんまに。
カバンをぺちゃんこにした、だぶだぶズボンのツッパリもどきが、廊下を我が物顔で、肩をだらだらと揺さぶって。
校舎裏でうんこ座りになった半人前どもが、束になって、タバコ吸って、ガラス割って、ボヤ騒ぎ起こして。
ほんま迷惑極まりなかったわ。
だいたい、ちっちゃな頃から悪ガキだった奴らは、一体どうなったというんだ。
もう一度出会ったら?
ふん。
決まってるさ。
授業中、ぶんぶんうるさかった銀蠅もどきなぞ、大きなハエ叩きで「いないないばぁー」ってしてやる。
教師は教師で、廊下を走っただけで執拗にこちらをぼこぼこ殴ってくるし。
すべての大人が尊敬できる存在ではないんだということは、あのころ、そりゃもう十分学んだ。
なにもかもがちっとも楽しくなく、話題や教室でいつも浮いたように感じていた私にとって、中学校はそれはそれはかなり難しい場所だった。

高校に入り、それが少し変わった。
新しくできた帰国子女の友人が、音楽なぞにまったく興味をもたない私に、「これすごいよ」とカセットテープを貸してくれた。
ブルース・スプリングスティーン&Eストリートバンド。
そのライブ盤。
名前なんてさっぱり知らない。

だれ、この人。
アメリカでは超有名人だよ。みんなボスって呼ぶんだ。
ふーん。そうなん。でも、音楽興味ないし。
いいから聞いてみなって。

すすめられるまま、勉強の合間、聞いてみた。
そして、そのまま。
あれぇ~っと、ずぶずぶずぅ~。
うひゃひゃ。
なんだ、なんだ。
何が起こった。
日本の歌番組では聞いたこともない弾けたリズムに疾走感。
野太い声。時には語り掛けるような歌い方。
そして突然、走り出す音。
にぎやかで、どんどん盛り上がっていくバックバンドとコーラス。
どきどきした。
一気に駆け抜けていく音楽に我を忘れて耳を澄ました。
私が聞いた、ザ・アメリカというべき初めてのバンド。
歌詞なんかさっぱりわからなかったけど、それでも親に必死にねだってCDを買ってもらい、毎日のように聞いた。
バッドランズはそのころ一番聞いた曲で、今もお気に入りだ。
いまだにどこかで耳朶にふれると、俊ちゃんみたいに、ハッとして、グッとなる。

あれ以来、洋楽かぶれし、雑誌のFMステーションを買っては読んだ。
表紙の、ポップなわたせせいぞうさんのイラストからさらに洋風世界に憧れを増した。
ああ、ボス。
彼を入り口に、見たこともない、行ったこともないアメリカに、心はどっぷり入り込んだ。
アメリカと聞くだけで、心が躍るような気分になった。
ロッキー。
スターウォーズ。
ET。
スタンドバイミー。
ゴーストバスターズ。
映画もいっぱいみた。
なんでも、ただきらきらとまばゆく感じられた。
華やかな繁栄の象徴だ。
ただただ白人たちがみせつける映画のようなアメリカン・ドリームにあこがれた。

懐かしいな。
そんなボスの新作。どんな感じなのだろう。
わくわくしながら聞いた。
が、若かりし頃の華やかさというか、労働階級や社会性をうたい上げた力強さというか、そういったものは一切感じられなかった。
とてもきれいなメロディーの、まったく違う人かと思うくらいの声質が、別の世界を歌っていた。
あの頃の華やかさや野太さはいまやどこにもない。
メロディーはきれいだけど、どこか暗く、冷え冷えとした陰鬱な空気。
ジャケットに映った写真のせいか、雪が積もる前の、枝からすべての葉が落ちた、寂しげな冬の森にいるような感じがした。
ボスも本当に年をとったんだなあ。
一体、何があったんだろう。
最新のインタビュー記事も目にしたけど、やっぱり……そっか。
鬱々した心情がしのばされるような、いままでイメージしてきたボスらしくない実像が浮かんできた。
「彼が再選されたら、おれはこの国を出ていく」
うつ症状を抱えているようなことも書かれていた。
そっか。
はぁ~あ。

でも。
年を取ったのは、なにもボスだけではあるまい。
私だって、それなりに歳をとった。
だって、それが証拠に、あれだけ憧れだった人も、そしてアメリカという国も、いまやまったく魅力的には映らない。
アメリカ映画を見ていても、昔みたいに憧憬を抱くこともなくなった。
洋楽を聴いていても、かっこいいけど……。
なんだか洗練されすぎて…。
テレビをつければなおさらだ。
デモが続き、選挙前のせいか、あきれたような混迷さが、さらに苛烈化している。
うそかまことか、ライフルやマシンガンをもった一般人がミリシアと称して町を警らし、その横で赤や青の看板を持った人々たちがののしり合いをしている。
今にも沸点に到達しそうな勢いで、本気でいがみあっているように見える。
現代のソドムだな、こりゃ。
ほんまかいな。
偽の投票箱がつくられたり、本当の投票箱が燃やされたり。
コロナはどこよりも蔓延し、なのにマスクをつけることでさえ、人権や権利を振りかざして抵抗している人もいるらしい。
おまけに大将は他国のせいばかりにして。
すべてが報道通りではないやろうけど。
でも、やっぱり、略奪や暴動を見ていると日本では当たり前の治安が保障されているとはとても思えない。
どこか映画や漫画みたいな世界にさえ見えてくる。
ここまでアメリカ人のやることは子供じみているのか。
幼子でも信じないようなデマを流しあって、信じさせようとするなんて。
かの国の、選挙前の映像をみていると、いつもだ。
見ていて目を覆いたくなる。

遠い昔、私はこんなイカれた国に憧憬を抱いていたらしい。
うそのような過去だ。
あれほど華やかで繁栄していた大きな背中が、気づけば、くたくたに錆びついて、疲れ切った老人のように小さく丸まってみえる。
考えてみれば、あの頃の私が行きたくもなかった中学校みたいだ。
息苦しくて、なんとも生きにくい場所だ。
そんな場所にはもう二度と足を踏み入れたくはない。
一緒になって、目の前の人間といがみ合いたくはない。
暴力をふるいたくもないし、ふるわれたくもない。
それどころか、こんな国に住みたくもないし、行きたくもない。
平和どころか、治安さえおぼつかないんだぜ。
隣人が、考えが異なるというだけで銃を向けてくるなんて、ほんまに正気の沙汰か。
アホなヤンキーのカツアゲの方がまだましだ。

でも。
冷静に考えてみれば、勝手に憧れを抱いていたあの頃から、もしかしたらこの国の実態は今みたいに根深かったのかもしれない。
そんなこと、あの頃は考えてもいなかったし、思いつきもしなかったけれど。
トップガンやフットルース。
白人同士のばかげた恋愛沙汰にアホみたいに心をときめかせた。
最先端の特撮技術を駆使したバックトゥザフューチャーやET、インディージョンズ。
冒険心満載で、きらきらとした日々にいつも夢を見ていた。

けれど。

それはもしかして、何も知らない、世界の片隅の、この島国人の末端の貧乏心が、乙女のようにくすぐられていただけなのだとしたら。
良いところばかりをテレビや新聞で見せつけられ、実態も知らずに、憧ればかりを抱いていたのだとしたら。
あの頃には、すでに自由や個人主義という言葉の陰に、目を覆いたくなるような偏見や人種間の不平等が底辺でぐるぐる渦巻いていたのだとしたら。
そういえば、そんな気配を何度も感じもした。
だって、マルコスⅩやミシッシッピー・バーニング、プラトーンといった社会派映画を目にする機会がだんだんと増え、いつしか遠くに住む私の目にも、少しずつアメリカの抱える違う側面が見えてきた気がするから。

いま、かの国を、遠い島遠くの岸辺から、再び違う視点で眺めている。
この目に映る、昔、恋焦がれたあの国は、もはや憧れでもなんでもなさそうだ。
私のような、世界の極東端に住む人間からみても、あの偉大だったアメリカは、もはや世界のリーダーとは映らない。
エゴやわがままばかりをごり押しする、まるでジャイアンのような駄々っ子だ。
錆びついていく原因を、時代や他国のせいばかりにして。
そのジャイアンに媚を売り、取り入るようにせっせと一緒にゴルフ場をラウンドしていたのはどこのどいつだ?

なあ、スネ夫。
決して、いつまでも脛をかじって、ジャイアンに右に倣えと追従していく必要はないんだ。
だいたい、威勢良かったあのツッパリどもはどうなった?
だからだよ。
お前、いつまでもパシリでいる必要はないんだ。

はたして。
ジャイアンが再びそこにどすんと居座ろうが、その首とネクタイを青くすげ替えようが、混迷し、深く根付いた人々の対立は鎮まっていくものなのだろうか。
誰がどう見ても、あちこちの地面には、ひどく隆起した膿や、大きく開いた傷穴ができあがっている。
皮膚にできた盛りあがった膿は、切開し、排膿し、やさしく洗浄してあげればいい。
さらに抗生剤でも服用させれば、大抵きれいさっぱりに癒えていく。
けれど、人々の心に抱え込んだ大量の膿はそうはいかない。
そんなものに見事に効く特効薬など、いまだ、どこの製薬会社も病院も開発はしてはいやしない。
怒りや不満、恨み、つらみ、怨嗟……。
そんなやっかい極まりない心の闇は、誰に頼るものでもなく、理性という己の力でコントロールしていかない限り、収まらないもの。
そんな風に危惧するほど、あの社会には根深い病が瀰漫しているように映って仕方がない。

今後も、怒りや不満のデモ、それに便乗した略奪や暴動は繰り返されるのだろうか。
そして生々しく、痛々しいまでの心の闇は、さらに奥深く、孤立したように内へ内へともぐりこんでいくのだろうか。
もう二度と排膿できないほど、心の闇の奥底へ、深く深く浸潤していくように。
そして、これから彼らが進む道にも、ずたずたに分断されたまま痛々しく残る傷が、空爆を受けたかのようにむき出しになっていくのだとしたら。

もしや、膿が破裂して自壊するのを待つしかないの?
いやだな。
そいつは、困るよ。
だって、膿ってさ、信じらないくらいの腐臭をあちこちに漂わすんだぜ。
こっちにまで漂ってきたら、いい迷惑だよ。
ほんま、ほんま。
だってわし、のんびりしたここが好きやねん。
ビール片手に仲間とさ、「あほ。ええかげんにせえや」と半ば呆れながら、わいわいがやがや、センチュリーやサウナをいじっていられる平和な関西がどんなに居心地いいことか。
なんならあの二人、セットで貸したろか。
大統領と副大統領に。
あんたんとこに比べたら、うちらのトップ、かわいいもんやで。
ちゃんと謝るもん。
でもな、ほんま、いっぺんどうや。
うちらの大好きな寛平さんに、あんたんとこの大将、ちぃとばかり血吸うといてもらったら。
そしたら、あんなえげつないモンも、きっとハートウォーミングな人間になれるわ。
まあ、いいさ。
とにかく。
わざわざ太平洋を渡って、漂ってこんといてくれ。
頼むで、ほんまに。

さてさて。
いまや、米を主食とするこの国の末端にいる私でさえ、米国と書くあの国は、あこがれに値する国でも、親近感を抱かせる存在でもなくなった。
米離れが進む昨今、主食や味覚だけでなく、心も、文字通りの米離れが加速しているのか。

そういえば、死んだじいちゃん、ばあちゃんがよう言ってたな。
美味しい米作りをするにはな、労力と時間をかけて、それも丹精をたっぷり込めなきゃあかんのやて。
国作りなら、なおさらやろ。
ましてや、あんたが、聴衆に向かって連呼する、MAGAなる真の偉大な米国作りをしたいんならなおさらだと思うわ。
なあ。
世界に誇るべき姿はどこいった。
ほれ、あんた。
目をかっぽと見開いて、真ん前に広がる大きな票田よう見てみい。
あんたが好き放題に、でこぼこに荒らしたせいで、あちこちで火種がくすぶってるやろ。
もう一度ゆうといたる。
田んぼはしっかり耕し。
ちゃーんと、丹念にな。
なんでって?
あほ。
だってな。
みーんな、こう思うとるんや。

星条旗よ、正常なれ。
永遠という名のもとに、正気を取り戻してくれって。

さあさあ。
何を言っても、愚痴になる。
よってらっしゃい、みてらっしゃい。
いよいよ、今世紀最大のショーの始まりだぁ。
赤組が勝つか、青組が勝つか。
あんたはどっちにかけるだい。
おいおい、そこのお嬢さん、頬を真っ赤に染めてどうしたの。
おいおい、そこの兄さん、顔、妙に青ざめてねえか。
まあ、いいさ。
どっちに転ぶか、どっちが勝つか。
トランプ遊びに興じましょ。
どっちの夫婦が、キングとクイーン。
ハートを引くのはだぁーれだ。
それとも両者にらみ合っての引き分けか。
そこの若いの、下がって下がって。
おいちゃん、どいたどいた。
そこ、ぼおっと立ってねえで、しゃがんでおくんな。
後ろがつかえて見えねぇぜ。
だってよ、あんたたちの背後にゃ、世界あまたの人たちが、いまかいまかとかたずをのんで見守ってんだ。

かの国では、あと5日らしい。
新しい社会が宣言されるそうだ。
そうですか。
でもね、私の目に映るその国の社会像は、よほどのことがない限り、以後も、きっと、それほど変わらない気がするんだ。
ごめんね、ボス。
だって、心が離れてしまったようなんだ…。
親愛なるあなたたちへ。
島国から愛を込めて。
”Goodbye, Badlands.”
2020年10月28日 18:55

へえ~、それって楽器だったんだぁ?

秋である。
自転車を漕いでいると、あちらこちらで金木犀の香りが鼻をくすぐる。
「いい時期ですね。先生、釣りには最適な時期じゃないですか?」
ええ、そうかもしれないっすね。
でもわかんないっす。
もう行ってないから。
だって、今はまったくタコ釣りに心がわかないしね。
行っても結果分かってるし。
だいたいさ、わざわざ出かけても、堤防で釣り竿垂らして、ただフジッコの赤い看板を眺めているだけ。
そんな私をゆらゆらタコ君がへらへら笑っているだけ。
そうなんだよ。釣りは私には向いていないんだよな。
最初からそんなことはわかっていたんだけどさ。
だって、餌木で魚を釣ろうなんてこと自体が間違ってるじゃん。
本気で釣りたければ、生臭いのを我慢してでも餌釣りをすればいいんだよ。
それが本来の釣りのやり方なんだからさ。
じゃあ、太極拳は?
えろう、すんまへんな。
わし、こっちも、もう飽きてんねん。
だって、腰痛あらへんし。
えーえー、だから成龍拳も未完成のままなんですぅ。
だいたい、本気でジャッキーになろうなんてこと自体が間違っていたんですぅ。
スターになるなら、もっと若い時期に考えるべきだったんですぅ。
今更、香港スターに憧れるなんて、まったくぅ。
ほんと俺ってばかだなあ。

そんな何事も中途半端で終わらせようとして、いつも何事も身につかないままの人生を繰り返している私。
何もすることなく、最近は仕事後、テレビばかり見ている。
ああ、バラエティーはおもろいなぁ。
笑っていれば、いやなこと忘れられるし。
芸人たちをみていると本当に生き生きと楽しそうだ。
サンマさんはすごいな。ほんまおもろいな。
そういえばM-1で活躍した芸人たちもかなりの勢いだな。
ミルクボーイもかまいたちもペコパも半端ない活躍だ。
M-1という舞台で躍動するとこんなに人生が華やかに変わるものなのか。
表情なんかとても明るいし。
そうかぁ。
M-1かぁ。
芸能界で売れっ子か。
いいな。羨ましいな。

そして、そのとき私は、はたと気づきました。
もしかして、私は、この世界にこそ、あこがれを抱いていたのではないか。
いまこそ、年齢なんて忘れて、この世界にダイブするべきではないか。
そうだ。何事もチャレンジすべきだ。
年齢なんて関係ない。
やればできると長友さんや本田さんが言っていた。
でも、一人では漫才はできないし、出場さえ叶わない。
ならば、相棒は。
誰かいないか。
ナマハゲならこう言うだろう。
おもろい奴はいねぇーが?
いや、実はもしかしてすぐ近くにいるんじゃねえ?
あいつ、性格冷たくても、おもろいからな。

翌日、ツンドラに話しかける。
「OK、ツンドラ。一緒にM-1出へん?」
「はあ?」
 あんた、またいきなりなにゆうてん? とばかりに冷たい視線でぎろっと見られる。
「あんな。M-1でてっぺんとったらどうやら人生変わるらしいで。2位でも3位でも人生変わるんやで」
「あ、そう」
「なあ、一緒にでえへん?」
「でるわけないじゃないですか。巻き込まんといてください」
「おもろいで、きっと」
「そんな簡単な世界ちゃいます」
ツンドラは調剤しながら、冷たい視線。
すっと視線をそらし、それ以上、まともに相手にさえしてくれへん。
その段階で、すでにツンドラの背中が氷山のごとく大きく目の前に立ちはだかっていました。
なんて冷たい背中なんや…。
そのときの私が受けた悲しみときたら・・・。
皆様にはわかってもらえるでしょうか。
気づくと私は悲しみで涙ぐんでいました。
何度彼女を見つめても、背中という絶壁が目の前にそびえているのです。
「M-1なんてやめとき」
あいつは、そうやって、断崖絶壁から私を奈落の底へとたたき落したのです。
私は、へなへなと床にへたり込みました。
そして、辺りを見回しました。
周囲はまるで暗黒に支配されているように映りました。
頬に当たる風は冷たく、空は真っ黒に包まれています。
誰もいません。
そう。
夢が破れた瞬間です。
あいつが私の夢を絶ったのです。
それほどM-1という壁は高く、高尚だったのでしょうか。
もうだめや。
憧れや夢で生きていけるほど現実は甘くはありません。
そう思うと、もはや生きているのが苦痛で仕方がありません。
立ち上がれないほどに打ちひしがれている自分に気づきました。
なぜだ。教えてくれ。
なぜ、一緒に出場してくれないのだ。
では、聞こう。
汝にとって希望とはなんだ。
生きる喜びとはなんだ。
そして、私は、これからどうやって生きていけばいいのだ?
私にはもう頼る人もいないのだぞ。
なすすべさえないのだ。
これから、何を心に秘め、そして何を希望や夢と定め、この代わり映えのない日々を生きていけばいいのだ。
ああ、教えてくれ。
ここは地獄なのか。
それとも絶望という現実なのか。
私はこれからという長い年月をこのような牢獄で過ごしていくのか。
ああ、わかっている。
心は風雨で腐敗した木板のごとくギシギシと軋み、幻聴が聞こえ、耳鳴りはやまない。
まるで恐ろしい雷音がいつまでも鼓膜に鳴り響いているかのようだ…。
Idreamed a dream.
世界は暗黒に包まれ、恐るべきトラが今にも襲ってくるような恐怖…。
一筋の光さえ差し込まない世界。
スーザン・ボイルの哀しき歌声が今にも聞こえてきそうだ。
そして絶望で打ちひしがれた心は私に病をももたらしました。
もう、食べ物さえ喉元を通らない。
あれほど立派につき出ていたおなかも、今はもう見る影さえありません。
もう心も体も、げそげそだ。
ほっぺただって、こけこけだ。
毎日を仕事だけで生き、笑うこともままならず、目はどんよりと曇り、唇は血の気を失って青ざめている。
体は今にもよろけて倒れてしまいそう。
毎日を絶望と困惑の日々をすごすばかり…。
でも…。
本心を言えば、それでも私は打ちひしがれた思いを打破したかった。
ただそれだけのことだったのです。

ある日の昼休み、泣きながら豊南市場に和菓子を買いに行きました。
そしてそこで思わぬ光景を目にしたのです。
老婆が市場でピアノを弾いていました。
ピアノ…。
いつの間に、こんなところに…。
誰が何のために。
市場にピアノなんて、な~んて斬新…。
その刹那でした。
暗く凍り付いた私の胸にピアノにまつわる様々な思い出がよみがえってきたのです。
よう子ちゃん……。
ああ、よう子ちゃん。
いつの間にか、老婆のあの丸まった小さな背中に、初恋のよう子ちゃんの姿が重なっていたのです。

朝の合唱の時間や音楽の授業。
いつも先生の代わりにオルガンやピアノを弾いていたよう子ちゃん。
窓から差し込む光を浴びた、あの子の白い横顔。
よう子ちゃんはピアノを弾きながら、いつも柔らかな笑みを浮かべていました。
ピアノを弾く、細く長い、うつくしい指。
こんな素敵な女の子と一緒にいたいな。
一緒にピアノを弾きたいな。
憧れと羨望のまなざしで、私はいつも口をぱくぱくしながらよう子ちゃんを眺めていました。
そのよう子ちゃん。
小学校卒業と同時に引っ越してしまい、夢はかないませんでした。
よう子ちゃん。
ああ、よう子ちゃん。
そのとたん、私は雷に打たれていました。
なにもかもが一瞬だったのです。
気づくと、老婆が奏でるサウンドと私が見事なまでに融合し、一体化していたのです。
音楽と自我とのシンクロニシティ。
誰にもこの思いとインスピレーションは伝わらないことでしょう。
そう。
きっとジョン・レノンとオノ・ヨーコもこのような経験を共有し、二人は結ばれたのです。
えっ。もしかして。
俺はジャッキーではなくジョンだったのか?
俺は香港スターではなく、リンゴ・スターを目指すべきだったのか。
ごめん、ヨーコ。
いや、よう子。俺は気づくのが遅かったようだ。

いやいや、まだ遅くはないぞ。
そういえば、家に20年ほど前にもらったおもちゃのキーボードがあったけ。
そうだ、あれでも引きずり出して今日から弾いてみよう。
楽譜も読めない。音楽のセンスもまるでない。でも、いつかここで、この市場ピアノであの可愛かったよう子ちゃんのようにきれいな音色を奏でよう。
そしたら、きっと市場で働く人たちも、私の醸す音色に合わせて歌いだすに違いない。
青空で、小鳥たちがさえずるように。
清らかな風の音色に合わせ、リスたちが小枝の上で踊るように。
私はまるで雷に打たれたように、スキップをし、小躍りしながら職場に戻りました。
その時の感激と喜びといったら…。
これを読んでいる皆様方にはきっとわからないことでしょう。
これは希望と夢に満ちた物語なのです。

「俺、ピアノを始めようと思う」
「はあ?」
案の定、アホなうちのスタッフ2人は口をぽかんと開いて私を見ています。
なんでそんな顔をするのだ。
わからんのか。
ピアノだよ、ピアノ。
すべての人々の心を惑わせる旋律を弾くのだ。
そして、すべての人々に希望と夢を届けるのだ。
「先生、楽譜読めるの?」
「無理」
でもね、人間やればできるんだ、って長友さんと本田さんが言っていたよ。
私は優しく彼女たちを見つめます。
あらゆる人々を包み込むような、すばらしく柔和なほほえみを浮かべて。
「先生 どうせすぐ飽きるでしょ」
「えっ。なんのこと。そんなことはないよ。絶対にないよ。たぶんないよ」
そんなやりとりをしながら、実はツンドラさんが9年もピアノを習っていたことをはじめて知る。
えー。それどころか、ウクレレを弾くこともできるなんて。
なんて、こったい。
実は、君はよう子ちゃんみたいにすごい人間だったのか。
そんな大事なことをなぜ君は履歴書に書かなかったんだ。
ピアノ歴は、学歴や職歴より大事なことだぞ。
だってあのよう子ちゃんが弾いていたピアノだぞ、ピアノ。
はやく言っておいてくれ。
バンドができるじゃないか。
「頼む。教えてくれ。オレに楽譜の読み方を。そしてピアノの弾き方を。俺はあの頃のよう子ちゃんに少しでも近づきたいんだ」
「まあ、いいですけど……」
私の熱意がようやくこの冷酷な心の持ち主にも伝わったらしい。M-1には興味さえ示さなかったのに、音楽には賛同してくれた。
さすが偉大なる音楽の力。
念のため、近くでくすくす笑っている温暖さんにも尋ねてみた。
「なにか楽器やってた?」
「いいえ」
「そう。じゃあ、みんなでバンドをするから、したい楽器ある?」
「私はペットしたいです」
「はあ? ペット?」
 一瞬、何の楽器かわからず、問い直すと、温暖さんはいつもの柔和な笑みを浮かべて言いました。
「ええー、分かりませんか。ペットボトルですよ、ペットボトル。あれ、すごくかっこいいじゃないですか」
ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ、お嬢さん。
一体、君は何を言い出すのだ。
なんのことだかさっぱりわからんぞ。
最近、彼女の中の、無添加・無着色のナチュラル素材の含有量が、以前にましてがぜん増えてきてないか。
ツンドラと一緒に目を点にして唖然と彼女を見つめていると、彼女はとたんに顔を真っ赤にしました。
「ごめんなさい……トランペットの言い間違いでした」
ははは。
もう、遅いぞ、温暖よ。
聞いてしまったんだ。
手遅れなんだよ。
もう決まったんだよ。
君は、ジャズメン・ユリノキトリオを組む際、ペットボトラーとなるのだ。
私がピアノ。
ツンドラがウクレレ。
そして、君はペットボトル。
こんな面白い楽器を君がどう演奏するのか、今から超楽しみだ。
吹くのか、噴くのか、転がすのか。
それともたたくのか、シェイクするのか、ひたすら潰し続けるのか。
その奥義とやらをとくと見せてもらおうではないか。
ははは。
楽しみだ。
ほんま楽しみだ。
絶対、君と一緒にやるためだけに一曲だけでもピアノで弾けるようにしてやる。
ぜひみなで一緒に音色を奏でよう。
ただ、このゆかいな楽しみのためだけにな。
へへへ!! 
ワハハ!!
そして来年は君と一緒にM-1だ!!
 
2020年10月03日 09:59

暑かった、そして熱かった、そんな夏だった。

少し前の日曜日。
ちょっと気になる試合があった。
息子、高3。
最終学年で迎える全国高校サッカー選手権。
それなりにアホな息子だが、サッカーに対してはそれなりの情熱を入れていた。
毎日、汗と泥だらけ。
これがまた、臭い、臭い。
帰るなり「疲れたぁ!」「今日も練習きつかったぁ!」の繰り返し。
練習は相当ハードらしく、毎日バタンキューしては翌日朝早くから練習に行っていた。
遊びもせず、マックもポテチも食べず、勉強なんかまったくせず、ひたすらサッカー漬け。
そんな日々を過ごしながらも、昨年は疲労骨折をし、試合から遠ざかっていた。
だからこそ今年は。
かなりの気合を入れていたはずだ。
なのにコロナ禍。
春の試合がすべてなくなった。
学校にもいけない。
練習もない。
当然、年を通して行われるリーグ戦も昨年のようには全部を消化できず、本人の落胆も大きかったらしい。
在宅中、「ああ、つまんねえな」といわんばかりの表情が毎日透けて見えていた。
その念願だった予選がようやく開催されることが決まり、息子はもう一度、気合を入れなおしていた最中だった。
でも、今度は、対戦くじに落胆。
早々に同レベルの難敵と当たることとなってしまったらしい。
毎年、五回戦くらいまで進むのだが…。
今年はなかなかの難関らしい。
その対戦相手。
息子いわく、数年前に共学となり、サッカー部に強化をぐっと入れ始めたチームとのこと。
監督には元Jリーガーを招聘したとか。
その効果は絶大で、近年めきめきと力がついてきたそうな。
「スカウトビデオで見たけどさ、去年とは全然レベルが違うわ。まったく別のチーム」
相手チームは再開したリーグ戦でも6-0とか7-0とかで圧倒的な強さを誇り、現在、他組ダントツ1位で通過中とのこと。
「父さん、相当やばいわ」
そっか。相手として手ごわいのか。
「最後の試合になりそうか」
「いやいや。絶対に負けへんで。全力尽くすから。でもなあ…」
「そんなに強いのか」
「うん。本当に負けてもおかしくない。オレ、もっとサッカー続けたいんだけどなぁ」
「そっか…。仕事がなかったら見に行ってもいいか」
少し考えるような間。
「……うん。ま、いいよ」
あれ?
普段は「来なくていいよ」と言う息子が…。
やはり息子たちにとってはかなりの強敵ということか。
緊急な入院がなければ、見に行こうか。

で、前日の夜。
本人は当然そわそわ。
寝るに寝れないらしい。
「ああ、ちくしょう。勝ちてえなあ。もっとさ、納得できる最後の最後までサッカー続けてえよ。ほんま負けたくないわ」
家の中でリフティングをしながら何度もそうつぶやいている。

当日、朝から曇り空だった。
会場に行くまでの間、自転車から見上げる空はどこまでも怪しい。
今にも雨が降りそうだ。
それでもグラウンドにはすでに大勢の親や高校生が駆けつけている。
両校ともサッカー部に力を入れているせいか、観客はかなり多い。
そして九時。
運命のホイッスル。グラウンドに鳴り響く。
いきなり激しいボールの奪い合い。
体を投げ出してぶつかり合う。
意地の張り合いだ。
かなり激しい。根くらべのような当たり合いが続く。
最中、ボランチから左サイドの息子にボールが渡った。
全力で駆け上がっていく息子。一人を交わしクロスを上げるも、味方につながらない。
はああ~。
それでも白チームは手を緩めない。
早々に数度の攻めを畳みかける。
が、相手が底力を出し始めた。
だんだんと力関係が見えてくる。
相手の方がやはり少し格上だ。
ボールを納め、しっかりと落ち着いて回そうとする。
それでも白のユニホームたちも必死。
食らいつこうと、その相手の足元までボールを追い続けていく。
一人がかわされても、その次。
そして、またその次。
猛然と襲い掛かる。
シュートを打たれそうになれば、体を投げ出して止めに行く。
大声が響き渡る。
止めろよ。
ぜってえ、負けんな。
奪えって!!
気持ちで負けんなって。
いいか。
ぜってえ、勝つぞ。
仲間同士、大声で鼓舞しあい、次々と奪いに行く。
相手のシュートを何度も防ぎ、スライディングもいとわない。
このくそ蒸し暑い日に…。
グランドだってぬかるんでいる。
互いにもみくちゃ。
こけては立ち上がる。
どの子も必死だ。
激戦。
ほんまの熱戦。
みんな、歯を食いしばって走り続けている。
大声を仲間に向かって張り上げ、誰一人さぼらない。
手をまったく抜こうとしない。
選手たちのユニホームは汗まみれのどろだらけ。
顔なんて砂か泥か日焼けかわからないくらい真っ黒だ。
いつもはアホそうな息子も、今日は全然違う表情をしている。
そんな顔、知らなかった。
こんな息子の表情を見たことなんてなかった。

そうなのかぁ。
高校生ってこんなに熱いんだ。

だんだんと相手にボールを渡る回数が増えてくる。
敵はシュートを次から次へと浴びせてくる。
が、決まらない。
ひやりとする場面が何度も続くが、白のユニホームたちが必死で食い止めにいく。
ボールを奪えば、素早いカウンター。
奪った瞬間、すぐに前線全員が全力で前へ前へ。
走れ、走れ!!
声をからし、蜘蛛の子を散らしたように駆け出していく。
相手も必死だ。追いかけてくる。
気迫が伝わる。すごい奪い合い。
全力で。
止まらずに。
大声を張り上げ、駆け続ける子供たち。

後半もカウンターを狙いの息子たちのチームが必死で守り、チャンスがあれば相手に猛然と襲い掛かる。
でも決まらない。
じりじりと時間だけが過ぎ、選手たちは疲労困憊となりながらも全力で走るのをやめない。
そして0-0。
終了ホイッスル。
白もエンジのチームも、疲れからか地面にへたり込む。
中にはあおむけに倒れこんでいる者もいた。
どの胸も、はあはあと波打っている。
汗だらけの息子も、膝に手を当て、ものすごい息遣いをしていた。
さあ、休む時間はなし。
待ったもなし。
審判が両軍に声をかける。
いざ、PKへと突入。
円陣を組み、大声でグラウンドへ駆け出していく両軍。
ゴールに対峙し、白線上に一列に並ぶ。
相手が三人連続で決めた。
白チームは二人が連続で外し、もう後がなし。
1-3で迎えた時、息子が前に進み歩いていく姿が見えた。
まじか。
外したら……終わりやんけ。
勘弁してくれ。
拳を握りしめて、シーンと静まり返る中、遠くの息子をじっと見つめる。
静寂が包み込む中、息子が地面にボールをそっと置く。
そして願掛けするかのように何度もボールを置きなおす。
深く息を吐くと、顔を上げ、まっすぐに後ろ足で下がっていった。
キーパーに対峙し、ゴールに向き合う。
長い沈黙の中、走り出した。
とてもじゃないが見ていられない。
目をつむった瞬間、「よっしゃー」という大勢の声が背後から響きわたって、ホッ。
それが相手へのプレッシャーになったのか、続く相手が外し、こちらが決める。
そしてまた相手が外した。
よっしゃー。まだ終わらんぞや。
行ったれー。
打ったれー。
気持ちで負けんじゃねえぞ。
一列に並んだ選手が大声を張り上げる。
歓声。こだま。あちこちで連鎖していく。
両者5人目まで終えて3-3のイーブン。
いよいよサドンデスへ。
熱戦だ。ほんまの激戦だ。
上がる上がるボルテージ。
テンションなんてもう大変。
盛り上がりがすごいすごい。
空には晴れ間が見え、グラウンドには一筋の光。
向こうで練習をしていたハンドボール部やテニス部まで手を休め、側溝の上に並んでじっと見つめている。
その視線の先には、一列に並んだ両校の選手たち。
胸の前で両手を握り締めている子。
曇空を見上げる子。
両手を組み、俯いて祈る子。
肩を組みあう仲間。
息子は胸に手を当て、ゴールに背中を向けた。
そのチームメイトが連続で決めていく。
相手も同じ。
よっしゃー。
次、決めたれー。
後ろから声が聞こえる。
7-7で迎えた白。
緊張した面持ちの下級生が進み出た。
うむ? 動きが硬い?
走り出し、蹴る…が、やっぱり…。
ボールがバーに弾かれ飛んでいく。
ため息が広がる中、相手が落ち着いて決め、万事休す。
その途端、がくんと地面に膝から崩れる面々。
地面にひれ伏し、わんわんむせび泣く背中が目に映る。
痛々しかった。
泥だらけで汗まみれで。
どこまでも痛々しく、どこまでもすがすがしく。
こいつら、こんなに一生懸命にサッカーをしてたんか。

帰宅後、泥だらけの汗まみれの息子を拍手で迎えると、一瞬むせび泣いたものの、すぐに表情を隠しそうと照れくさそうに俯いた。
「やっぱ悔しいわ。決して負けてなかったからな」
肩が揺れている。涙声だ。
「そやな。でもなんかいいもん見させてもらったわ」
「でも勝たんとな」
「そやな」
さすがに負けのままで一日を終わりたくないらしい。
「父さん、将棋せえへんか」
「ええで」
こやつ、将棋ならいつも私に勝つ。
でも、息子はいつもの調子ではなく、疲れているのか不思議と詰めが甘い。
上目でちらりと見ると、盤上を見つめる息子の目は真っ赤だった。
負けてあげればよかった。
だけど無理。勝ってしまう。
心の傷口に、塩をたっぷりと塗り込むようなことを私はわざとした。
「くそっ。つまんねえな」
でも、終わったときには、あんなにグラウンドで泣きじゃくっていた姿とは別人のように、腫れた目をへの字に。
嬉しそうに笑っている。
「しゃあないな。まあ、今日はしゃあないわ。そういう日やねん。今度は受験でがんばるわ」
吹っ切れたように椅子から立ち上がっていく。
そして「今日だけだから」と言って、仲間たちとの最後の打ち上げへでかけていった。
もうさっさと切り替えて、次か。
高校生ってすごいな。
そう気づいた日。
そのなんとも言えない感動の余韻はなぜか翌日まで続き、こちらも仕事、頑張らなければ、と一段と気合を入れて一日を過ごしたような気持ちがする。
そうそう。
ほんまに頑張らなければ。
だって、あいつ、ほぼほぼのほぼ浪人決定やし。

今日も仕事からの帰り道、緑地公園のイチョウ並木は少し黄色く色づいて、街灯に照らされていた。
枝々には銀杏の白い実がいくつも鈴なりに連なってみえる。
風はいくぶん冷たい。
いつの間に。
秋はこんなに近づいていたのか。
そっか。
特段、今年の夏は何もしていない。
けど…。
なぜか、いい夏を過ごせた気がする。
るんるんと鼻歌混じりで…。
夜道、風を切って、自転車を漕ぐ。
いつもと変わらぬ帰り道。
夏、終わる。




 
2020年09月20日 23:57

俺史上最高のゴールって・・・。

「父さん」
帰宅して食卓につくなり、息子がにやにやと声をかけてきた。
「どうした?」
「聞きたい?」
息子はほんまにうれしそうな顔をしている。こんなときの息子は最高にアホそうだ。
どうせたいしたことではないだろうから、あまり聞きたくはない。
が、どれだけくだらん話題かは興味はある。
「まあ、聞きたいかもしれない…」
息子がよしゃといわんばかりの表情を浮かべた。
「あのな、今日な、俺、俺史上最高のゴールを決めた」
「お前史上最高のゴールか…」
やはりアホ話そうだ…。
「試合で決めたのか?」
「違う。練習だよ、練習」
「お前な、試合で決めて喜べよ」
「いいから聞けって」
「聞くけどさ、お前、二か月まえ位にも俺史上最高のゴールを練習で決めたよな」
「あれよりすごい。あれは胸トラップしてからボレーでダイレクトに決めただけ。あんなんよりもっとすごい」
「アジア杯で李忠成が決めた矢のようなボレーか?」
「あれよりすごい」
「まさかクリロナの弾丸よりすごいシュートか?」
「もしかしたら超えたかもしれない」
そんなわけねえだろ。
最近アホを通り越して、おバカの壁に到達しつつあるようだ。
でもかわいそうなので、「そうか。それはすごいな」と適当に相槌を打つ。
「どんなんか教えてやろうか」
「おお、教えてくれ」
新聞に目を通したいのを我慢して言う。
「あのな。どんなシュートだったかというとだな」
「なんだ?」
「大空翼のドライブシュートに日向小次郎のタイガーショットを混ぜたようなすごいシュートだ」
「・・・」
いよいよ、おバカ圏内に突入した模様。
息子は胸を張って、自慢げ。
はああ。
このどあほが。
「キックした瞬間な。ゴール上にすごい勢いで飛んでいって、ああ~外したと思ったら、急にキュルキュルってドライブがかかってぎゅんって落ちたんだよ。そしたら、そのままネットにぐさりと突き刺さってさ。そのままギュルギュルと回転してネットに突き刺さっていて、しばらくしてようやく下にぽとんと落ちたんだよ」
「そうか…。それはすごいな。一分くらいネットに突き刺さったまま回転していたんだな」
「一分もないわ。からかうな」
「ごめん。ごめん」
「とにかくすごかったんだから」
「練習でだろ」
「いいだろ。練習だって」
「そうだな…」
「とにかくすげえんだって」
「わかった、わかった」
息子はうれしそう。
俺史上最高のゴールか…。
ほんま、はぁ~あやな。

そんな息子も受験生。
くだらん話を自慢げに話す前に、はやく大学受験に本腰を入れてもらいたいものだと思っていたら、最近友達との間でも受験の話題がでてきているようだ。
少しずつ目の色が変わってきた感もする。
先日も机に座り、勉強している。
一生懸命じゃないか。
後ろから覗くと、きれいなパンフレットを並べてあれやこれやと眺めている息子がいた。
いよいよ、こんなあほでも、行きたい大学のパンフレットを集めだしたんだな。
良かった良かった。
そう思って「どこの大学へ行くつもりだ」と肩に手を置いて背中ごしに覗くと、机に並べられたパンフレットは全部予備校のものだった。
「大学……じゃないのか?」
「そうや。予備校」
「・・・」
「父さん、どこもな、授業内容がすげえ充実してるわ。ほんま予備校ってすごいな」
「・・・」
「父さんはどこの予備校がいいと思う?」
【お前な……】
残念だが、父はどこの予備校がいいかはあまり考えたくはない。
わかるかなあ、この気持ち。
わかんねえだろうな~。

息子よ、どうせならこちらで俺史上最高のゴールを決めてくれんもんかね。
そしてさらには人生においても俺史上最高のゴールを決めてくれたら父はうれしいぞ。
まあ、でもな。
そんな願いをしても無駄やな。
大体、私自身、いまだ人生最高のゴールを決めたことがない。
そんな親の息子に過度な期待をしても仕方あるまい。
だってトンビがタカを生むわけじゃないし。
そうそう。
それよりも、こうやって楽しく笑っていられるだけでも幸せ…。
そう思った方がたぶん幸せ。
そう、たぶん。

 
2020年09月07日 14:56

OHPも焼却炉もないの……?

この前、うちのアホ息子が突然、
「父さん、昔の学校のプールって肩までつかる消毒槽があったって本当?」
と尋ねてきた。えーっ。こちらのが驚きだ。
「ほんとに今はないのか?」
「そんなんないわ」
へえ、そうなの。
こちらは高校まで消毒槽に浸かってからプールに入った覚えがあるから今も当然あるものだと思っていた。
そんな学生時代の思い出を一通り息子に話す。
「ふう~ん。じゃあさ、他に昔の学校にあったもので今はもうないもん知ってる?」
どうやら友達の家庭で、そういう話題があり、盛り上がったそうだ。
その失われた備品や装備などにひとつに、OHPがあるらしい。
「えっ。OHPも今はないん?」
「ないわ。名前だけはなんとなく聞いた覚えはあるけど…。使い方はよう知らん」
そりゃそうだ。今じゃ、作成した資料がプロジェクターで映し出される時代だ。
一枚一枚シートを変える、あんなめんどくさい投射器など、よほど古い資料を使わない限り、今の時代はもう使わないだろう。
他には他には…。
えっ、焼却炉も。
「そうやで。いまはダイオキシンの影響でないんや」
うそやろ。
衝撃的だ。
あの焼却炉がねえ…。
小学時代、焼却炉にはかなりお世話になった。
だって、テストが返されるたびに、放課後、友達と燃やしに行ったからな。
懐かしい思い出が脳裏に徐々によみがえる。
そういえばアワちゃんどうしてるんやろ。
あいつ、通知表まで燃やそうとしやがって。
それを見ていた私が慌てて顔を突っ込んだ。
運よく燃えずに助かってはいたものの、くすぶった焼却炉の底には、無数に捨てられた牛乳瓶の紙蓋たちと一緒に通知表が…。
まっくろくろすけの煤だらけだった。
「アホっ!親に怒られぞ」
「アホっ!親に見せる方が怒られるわっ!!」
あいつ、ほんま顔ひきつってたからなあ。
今頃どうしているんやろうか。
まっとうな大人になっていてくれたら、友としてうれしい限りだ。

で、アルコールランプも分銅もいまはないそうだ。
黒板やチョークは現在の高校でまだ使用しているそうだが、「たぶんもうなくなるんちゃうの?」と息子。
そりゃ、そうだろう。
そんな他愛ない話を息子としながら、新しい現実を一つ一つ知るたびに年老いていく気がした。
やっぱり時代は本当に変わってきているのだなあ。
かといって便利になっても、今の自分は新しいものを使いこなすことをしないし、そんな気もない。
なんだか、新しいものを取り入れること自体、億劫になりつつある。
これ以上は、昔のままでいいよ、と投げやりな気分で…。
そして気づくと若いスタッフからも取り残されているような気がして…。
それくらい現代の進歩は早い。
後、五十年や百年もしたら、どうなっているのだろう。
どう考えても、後世はすっかり変わり果てているに違いない。
江戸時代の人が今の時代をみたら、ひっくり返るくらい驚くだろうけど、案外自分もそんな風になるだろうか。
携帯はどうなっているのだろう。プロジェクターは宙に映像を映し出しているのだろうか。
外出する必要はだいぶ減るだろうし、車は空を飛んでいるかもしれない。
ペットだってロボットに替わっているかもしれない。
そうなったら獣医はエンジンニアにとって代わられるだろう。
新幹線なんてあるのだろうか。もはや人は瞬間移動しているかもしれない。
交番にお巡りさんはいるのだろうか。警官ロボットが町中を蠢いているかもしれない。
いや、いや。
そのとき人類はいるのだろうか。
人類があらゆる動物を押しのけてきたように、ロボットやAIが人間の地位を押しのけているのではあるまいか。
だとしたら、そのとき、人類は絶滅危機に瀕しているかも。
気づけばレッドリスト記載の筆頭生物となっているなんて。
まあ、そうなっていても仕方あるまい。
人類は、他の生物やこの地球環境に対して極悪非道なふるまいを相当働いてきたからな。
他の生き物が絶対にしなかった悪道な三昧を。
かの大岡越前でさえ裁ききれないほどに…。
気づけば築き上げた高度な文明が、己の首をぎゅうぎゅうに絞めつける縄となる。
現実はそうならぬよう願いたい。
が、そんな風になっていてもけっしておかしくはない幾多の過去が目の前に山積みになっているように見えるのは気のせいだろうか…。

 
2020年08月26日 20:03

もし仮に、私が巨大タコを釣り上げてしまったら

タコ釣りについて書いた後、ある飼主さんから「先生、バックラッシュしたんだって?」と聞かれました。
【バックラッシュってなんだ? フランダースのパトラッシュなら知っているが…】
内心戸惑っていると、どうやらバックラッシュとはリールが絡まることを意味するそうで、タコ釣り用リールはタイコリールと呼ぶことを初めてその時教わりました。
「先生、タコ釣りはぜったい投げちゃだめやで」
ありがとうございます。もう投げません。
いままでの人生のような、安易に物事を放り投げたりするようなことは絶対にいたしません。
たぶん。

また、ありがたきことはこれだけではありませんでした。
ほかの飼主さまからはせっかくタコ釣りに行ったのに釣果がほんまのほんまのタコだったことに憐れみを感じてくれたようです。
「先生、釣れなかったんだって」
「はい」
「いま、淡路島へ遊びに行った帰りなの。で、本場淡路のたこせんべいの里でせんべいを買ってきてあげたから元気出し」
とばかりにタコせんべいのアソートをいただきました。
お気遣いありがとうございます。
そうですねん。あれから三度釣りに行きましたわ。
で、いまだタコです。一匹たりとて釣っていません。
そのことをタコせんべいをいただいた代わりに伝えると、
「えっ。うそでしょ。夏は結構釣れるって聞きますけど」
「でも釣れなくて」
「えっ。うそでしょ」
と再度、驚きと憐れみの目でじっと見つめられました。
なんで、あなたまでそんな目で私を見るのですか……。
スタッフだけで十分なのに…。

そんなことが幾度かあり、私の心に火がめらめらとともったのは言うまでもありません。
お盆休みです。帰省なんてできやしません。
だって故郷NYまで帰省したらトランプさんにまでしかられそうです。
ということで今年はほんまの宙ぶらりんの夏休みがやってきてしまいました。
とはいっても、今や誰も私を遊んでくれません。すでに息子は父と一緒にいるのを嫌がる歳となりました。
妻なんて何十年も前から相手にしてくれません。
スタッフだって今やそうです。
ならば…。
俺が相手にするのはタコしかない。
たぶん、これからの人生、私はタコを相手に生きていくしかないのだ。
そんな思いで、明石から我が阪神の甲子園浜へと舞台を移し、今回も行ってきました。
あらかじめいろいろと考えた上での再挑戦です。
何事も反省点を生かしていかなければ上達はありません。
釣り糸の結び方も覚えました。外科結びという暴挙はあれ以降しておりません。
ふざけた名前の、ゆらゆらタコくんも新たな色彩を調達しました。
きっとピンクのタコくんだけでは海面下のほんまもののタコの心は掴めないのです。
だから、黄色や青のゆらゆらタコくんも用意しました。
こいつら名前だけでなく、本当にふざけた顔をしています。
ほんまこんなやつらで釣れるんやろうか。
ま、後は時間帯か。
朝早くから言っても、釣れなかったから今回はやめよう。
夕方から狙ってみよう。
よし。決まった。

で、夕方四時すぎ。そろそろご先祖さまたちがナスビの馬にまたがって、里帰りされる頃。
暑さが残る甲子園浜の堤防にはそれほどの人はいません。
これはありがたきことかな。だって近くに人がいると、また何かあったときに笑われる。
そう思い、さらにはできるだけ隣の釣り人と距離をとって場所を陣取りました。
視線をあげると鳴尾浜。
対岸には工場や倉庫の群れが並ぶ。
目の前の海では、ヨットで優雅に遊ぶ人たちが…。
さあ、ゆらゆらタコくん。
いよいよ、君の出番だ。
気を付けて、いってらっしゃい。
グッバイ。
そしてグッジョブ。
お別れの投げキスをし、ふざけた顔をしたタコくんを波打つ水面へするすると落とす。
後は、なるようになりなされ。
待つだけよ。
そう、私、待つわ。
待つわ~待つわ~、いつまでも待つわ~
と、誰も近くにいないことをいいことに、昔の歌を大声で口ずさみながら、本当に待つこと三時間。
少しも釣り竿に反応なし。
時たま、ゆらゆらタコくんがどうなったのか不安になり、リールを巻いてみるも、ゆらゆらタコくんは文字通りゆらゆらとしたまま、へらへらとふざけた顔をして道糸にぶら下がっている。海面から、へらへらとふざけた表情で戻ってくるこやつが、なんとも腹立つこと、腹立つこと。
おまえ、まさか海底でもそんなふざけた顔をして揺れているのか。
ほんまに仕事してんのか、こいつ。
面と向かって不満をぶちまけるも、ゆらゆらタコくんは相も変わらずへらへらしてる。
ふざけやがって。
だんだんこのユラタコ野郎を扱う手がぞんざいとなり、口ずさむあみんの曲にも飽きてくる。
生ぬるい景色はだんだんと暗くなり、対岸の倉庫群に灯がともり始め、やがて夜闇にひときわ目立つ真っ赤な看板。
フジッコと書かれた看板だ。
タコはいまだに私を相手にしてくれない。
残念だ。
こんなときルパンには素敵な相棒フジ子ちゃんがいるのにさ。
なのに、俺の相棒は闇夜に浮かぶフジッコかよ。
たこにも相手にされないタコ人生。
早く帰って、お豆さんをいただけってか。
ふん。なんだよ、なんだよ。
ふてくされていると、少し離れた三人組が動き出した。
アジだろうか、次々と釣果を出している。
羨ましいな。タコにこだわった俺がバカなのかな。
私もサビキに変えるときがそろそろ近づいてきているのかもしれないな。
そんな弱音を心の中で呟いていると、ふとこれは…、と思った。
そっか。
これは試練なのかもしれない。
えっ。
も、もしかして。
やっぱりこれは試練なのか…。

だって考えてもみればいい。
暗闇の中、波打つ音を聞きながら、竿はピクリとも動かない。
それなのに周りはつれ始めている。
これは何かの予兆なのだ。
だいたい物語はこういうときに始まる。
そう。
何かが始まるとき、それは周囲から始まるのだ。
自分だけが周りから浮き、居場所がない思いを抱き始めたそのとき、劇的な始まりがすうっと忍び寄るように訪れる。
もしかして、あの海底で揺れるへらへら顔のゆらゆらタコくんの前には、とんでもない巨大なタコが待ち構えているのかもしれない。
まさかかたずをのんで襲いかかろうとしているかも。
妄想は膨らむ。
もしそれが、海面からどわっとゴジラのごとく顔を出したら。
その始まりが、この竿から始まるのだとしたら。
それがもしかして、今の私に課せられた任務だとしたら。
どうやって私は戦うのだ。
まだ始めたばかりの必殺拳法、成龍拳は完成していない。
残念だが、腰痛が治ったくらいの成果しか出していないのだ。
そんな私に地球を襲う巨大タコと戦えるのか。
この日本を巨大タコから救えるのか。
今、日本は重大な危機にある。
コロナでほぼ死に体と化した今の政権では、きっとこれ以上の有事の対応は無理だろう。
では与党ではなく第一野党が…。
いや、あの方々は、いくら合併を試みても、都合悪くなれば、またすぐに、さっさと離散してしまうだろう。
となると、誰が戦うのだ。
そう。私たち一人ひとりが立ち上がるしかない。
この地球のために。この日本のために。
あいすべき者たちのために。

ということで、当院では「ブルース・リー養成所」を別室にて立ち上げることといたしました。
私と一緒に巨大タコに立ち向かいたい方はどうかご一報ください。
ただし、その際、「あなたのようなブルース・リーにあこがれるものです」と受付にお伝えしようものなら、受付のものが「はあん?」とした顔をして、やんわりとお引き取り願うことでしょう。
つらい思いをされたら大変申し訳ございません。
でも、それも精神の鍛練だとお思いいただければ幸いです。

以上、お盆休みのため、適当なことを書いてしのぎました。
大変なご無礼、まことに申し訳ございません。
都合上、やむなかったのだとご理解いただければ僥倖の至りです。

 
2020年08月15日 20:12

いざ、そのとき私は…

先日のこと。
狂犬病の登録代行で保健所に行った。
事務手続きをしてもらっている間、暇なため、保健所のロビーを歩き回っていた。
片隅にパンフレットなどが置かれているコーナー。
ちょうどいい。何か面白い情報誌でもないか。
まずは服部緑地のお花などを紹介したパンフレット。
一通りそのパンフに目を通したあと、すぐそばにあった待兼山PRESSという小冊子に目がいった。
待兼山って?
時たま聞くけど、なんだったっけ?
見ると大阪大学豊中キャンパスにある小山らしい。
大学が発行する冊子だった。
裏面には豊中キャンパスの広大な地図が描かれている。
へえ。こんなに大阪大学って広いんだ。
そういえば、高校時代の同級生が理学部に通っていたな。
あいつこんな広い大学で勉強していたのか。
うらやましいなあ。
と思いながら、ページをめくっていると、総合学術博物館の第22回企画展という記事が目に入った。
なになになに?
【四國五郎展~シベリアからヒロシマへ~】
四國五郎って誰だろう……。
寡聞にして知らなかった。
どうやらヒロシマを拠点にした画家で詩人であった方らしい。
展示会にも行っていないため、四國五郎さんの業績に関し、記事で書かれていることくらいしかいまだにわからないけれども、そこに書かれている言葉に不意に心をえぐられた。
「戦争を起こす人間に、本気で怒れ」
なんだ、なんだ。
目の前が突然、ぱっと光った気がした。
「ほんの一握りの政治家が起こす戦争で、桁外れの人が不幸になる。戦争を起こす本当に悪い奴に対しておまえは怒れ」
読めば、当時小学生だった息子さんに伝えた言葉だとのこと。

数日前、NHKのクロ現を見ていた。
近年、地方の戦争資料館の閉鎖が相次ぎ、当時の資料の置き場がなくなりかけているとのこと。
さらには行き場のなくなった資料が破棄されている現状が映しだされていた。
それどころかインターネットに流れた軍服が若者に売買され、サバイバルゲームをする際の衣装として再利用されている光景も。
体験者が語る。
戦争の悲惨さが今の若者には伝わっていないのか。
そんなコメントが聞こえてきた気がするが、あまり覚えていない。
それほど衝撃的な光景だった。
だって遠い昔、戦火の中、命からがらにまとっていた服だ。
そこらのセカンドストリートで安価に購入できる古着じゃない。
軍服には、戦地の泥がにじみ、流された血や涙が染みついているかもしれない。
そんなぼろぼろの戦着が、いまやどうでもいいサバゲーに転用されている。
「僕たちにとっては、ただの服ですよ~」
若者がお気軽に答える。
そっか。
やっぱり人の思いとは永遠に伝承されていくものではないのか。
でも……。
戦争はぜったい遊びではないとは思う。美化することもできないと思う。いざとなったらとても笑ってなんかいられないと思う。
アホな私でもわかる。
でも、なんだかへらへらしている。
ゲームをしている若者も。
それを眺める自分も。

最近、無念に命を落とされた夫を思い、ある夫人が本気で怒って立ち上がった。
ものすごい勇気がいることだと思う。
相手が国家だから。
それも都合の良いように幾多の改ざんを繰り返してきた政権だ。
好奇の目にさらされて……私にはとてもまねできない。
でも、あの女性は本気で怒っている。真実を本当に知りたがっている。

翻って、お前はどうよ?
いざ、というとき、私はあの寡婦のように本気で立ち上がれるのか。
四國五郎さんが伝えたように、平気でひどいことをしでかす一握りの政治家に対して、今の私は本気で怒れるのか。
だいぶ前、勇気と元気は使わないとどんどん失われていく、と何かに書いてあるのを読んだ。
そういう心の気が勇気と元気なんだよ、と。
日々使っていないと、削がれて、錆びついていく心の気。
それが勇気と元気。
なんとなくわかる気がする。
踏み出さなければ勇気はでない。
ちゃんと声を出し、心から人を包み込む笑顔でいなければ、元気だってでない。
萎縮ばかりしていたら……きっと立ち上がることもままならない。

削がれていまいか。
錆びれていまいか。
ひとたび世界を見渡せば、微小ウイルスに翻弄される中、国家に抑圧される人々がいて、それを大国同士で批判しあい、報復合戦に興じている。過剰な通信網の発達下では小さな個人がどんどん丸裸にされ、そして足元では自分たちの都合が良いように残された資料やリストが黒く塗りつぶされていく。
うそだろ。
戦時中であるまいに。

だが、そうでもなさそうだ。
時折、庄内を歩いていて、はたと思う。
対岸の騒動はそれほど遠いものではないことに。
なぜなら、この地には、現代の負遺産が取り残されている。
瑞穂の國とうたわれた、開校さえされなかった疑惑の小学校がぽつねんと今もとり残されている。
その現代遺跡の近くを通り過ぎるたび、なんとも言えない気持ちが湧き上がる。
草むし、朽ち始めた国有地の下に埋まっているものは、もはや、取りざたされた大量のごみや産業廃棄物だけではきっとあるまい。
口にするのも憚れるような、薄気味悪い、得体の知らない黒々とした何かが確かにそこに横たわっている。
そして今日もまた。
誰もが見て見ぬふりをして、あの前を通り過ぎる。

現代というカオスを眺めていると、やっぱり勇気と元気は日々養っていかないといけないようだ。
さあ、今年もまた暑い夏がやってきた。
無数の蝉声が澄みきった青空にひびき渡る。
あの喧しい鳴き声は、短き命の儚さを教え知らせるものか。
八月。
忘れてはいけない月がやってきた。
あれは終わったこととして忘れてはいけないはず。
だって終わりは次の始まりだ。
本当に大量の火の粉が舞い始まってからではもう遅い。
権力を、我が物顔で握りしめた一部の人間に、もっともっと恐ろしい歴史がまた築かれてしまう。
そしてそのとき。
私たちは、圧倒的な武力を前に、虐げられ、悲しいほどの無力さに気づくのだろう。
茫然自失の体になったときにはもう遅い。

再度、問う。
おまえはどうだ?
本気で怒れるのか。
いやいや。
諦念し、片隅に隠れて幼児のようにわんわん泣きわめくのか。
いかんぞ。
いかんぞ。
そうなる前に、この平和ぼけをした両目を少しでも覚ましておこう……。
だって、さもなければということが、この世にはあるから。

 
2020年08月05日 22:35

ヒロシじゃなくてジョウシです。

ヒロシじゃありません。
ジョウシです。
先日のことです。
忙しかったため、「大丈夫? 疲れていない?」とスタッフに声をかけてみました。
ありがたいことに、「はい。全然大丈夫ですよ」と温暖さんがこたえてくれました。
念のためです。
「ほんとにほんと?」と再度二人に確認してみました。
二人は頷いてくれます。
「大丈夫ですよ。安心してください」
「だって私たち、ストレスがたまったら、先生のお腹をサンドバック替わりにしますから」
再び頷きながら、温暖さんが私の目の前でシャドーボクシングをしはじめました。
私、聞かなければよかったとです。

ジョウシです。
これまた最近のことです。
「俺さ、太極拳を始めてから、腰が痛い日が少なくなってきたんだよね」
と話したら、ツンドラさんに真顔で「えっ。あんなヘンな拳法で効果があるんですか」
と言われました。
そ、そうですかぁ。
やっぱりですか。
あなたの目にはそんな風に映っていたかとですか。

ジョウシです。
こいつはだいぶ前のことです。
床でつまづいて転びかけたとき、心配したツンドラさんが慌てて声をかけてくれました。
「おじいちゃん、大丈夫?」
そうですかぁ~。
やっぱりあなたの目には、私は、変な拳法使いの、悪く言えば、少し気が触れたお年寄りにしか映らなかとですね…。

ジョウシです。
この前、自分の丸いお腹を分服茶釜の狸のように一人悦に入って叩いていたら、「何も出てこないドラエモンのお腹」と横からスタッフに言われました。
とほほのほですばい。
本当に申し訳ございませんね。
私だって何か出せるものなら出してみたかとです。

以上、ジョウシです。じょうしです。上司です。一応、たぶん上司です。
そんな私が、最近、ソロキャンプに無性に行きたくなってきたのは、やっぱり気のせいではないと思います。
私、哀愁を帯びたあのヒロシさんの気持ちがなんとなく分からなくもなかとですから。
 
2020年08月01日 19:10

な、なんと。ボーアがボワッと火を噴いたぁ!!

先日まで毎朝、職場で、
「ボーア、マルテ打てんサンズ」
「ボーア、ぼあぼあしてんじゃないよ」
と負けるたびに助っ人三人衆について嘆いていたら、なんと昨日はそんなボーアが奇跡の満塁弾。
今宵もボヤ程度の火しか噴かないかと思っていたが。
当たれば飛ぶじゃないか。
もしかしたら、ようやく私のタコ釣りの怨念があなたのもとに届いてくれたのかい。
こんなことなら、もっと早くクロネコヤマト宅急便で届けておけばよかったよ。
まあ、とにかく良かった。良かった。
まあ、当たればだけどな。
と毎日文句ばっか言っている。
でも、いちおうは応援してるんよ。
と思いつつも、いつまで続くのかなあ・・・。
頼むよ、ほんまにボーア。
それにしても大阪はいまいち盛り上がらんのぉ。
阪神だけのせいやろうか?
いろんなスポーツの在阪チームも多く、さらにはファンも熱狂的なのにどこも成績はパッとせん。
先日は深夜のサッカー。
大好きなサッカー。
おまけに大阪ダービーや~ん。ちょ~楽しみ~。
頑張れ、セレッソ。打て、ガンバ。
あれれ。
いまいち盛り上がらん。
う~ん。
ダービーちゅうても迫力に欠けるなあ。
無観客やからか。
いやいや。がつがつとした激しさがありゃせんぞ。
テクニックはうまいけどな。
なんかなあ。それじゃあかんやろ。
そのボール、奪えよ。激しく追えよ。もっとがんがん走ってくれよ。
こちらはプレミアやリーガみたいな激しい球際の攻防がみたいんや。
Jリーグのすごいところをみせてくれ。
いやいや。あれまあ。もう前半終了?
これ、選手のせいだけちゃうんちゃう。
録画放送やしな。おまけにシュート場面ばかりの編集やんか。
なんや、またCM。コマーシャルばっかやんけ。
どうせならタケモトピアノをやってくれ。
あれ、何度みてもおもろいからな。
金鳥でもええで。
おっ、始まった。
おいおいおい。
へいへい。走れよ。ほんまに。なんか拍子抜けやな。
こっちは打ち合い見たいんや。ええ~、なんなんこれ。
もう終了? 結局2対1か。
しょぼいなぁ。どうせなら15対10くらいのおもろい打ち合いしてくりゃええのに。
ダービーだろ、ダービー。天下の大阪ダービーやんけ。
こんなん大阪ダービーちゃうで。ただの大阪漫談や。
頼むで、ほんまに。
また勝手なことばかり。
ぶつぶつ文句ばかり言いながら、それでも私はいつも在阪チームを応援している。
こんな、グダグダのおっさんの気持ち。
どうか天まで届いてほしい。
でも今日も雨。
あ~あ。
なんやねん。
今度はどしゃぶりやん。
あんたなあ、天に届く前に、これ以上、おっさんの思いを洗い流さんといて。
ボーア、ほんま次も頼むでぇ。
頼むで、ほんまに!!

 
2020年07月06日 14:45

今日の釣果はほんとに、ほんとのタコ

打たず、打てず、打たれて、また打てず。
阪神はまた負け。
矢野監督の顔が今日も青ざめている。
だいたい、助っ人、助っ人と騒ぐのもいいけどさ。でもなあ~。
バースの亡霊をいまだ追い続けて、はやどれほどの月日が過ぎているのだろう。
掛布さんや、岡田さんがもう一度復帰してくれればいいのに。
仙さんが生き返って、また監督してくれたらなあ。
早くヤクルトの村上選手のようなすごい若者が出てこないかなあ。
履正社出身の井上くんはまだ二軍なのかなあ。
早く出てきて、岡本やギータのようにバンバン打球をスタンドの遠く向こうまで飛ばしてくれないだろうか。
そんなもやもやした梅雨の時期。
気持ちはよ~くわかります。
私もその一人です。
勝って雄たけびをあげることもままならず、かといって愛するサッカーも試合がなく、趣味という趣味もないまま、日々仕事で生きている。
少し、すかっと気分を発散したいなあ。
そう思い、先日、スポーツの代わりに小さい阪神さんのビックフィッシングを見ていた。
へえ、釣りってそうやってやるんだ。
釣ってみたいなあ。
エギングってイカ釣りのことなんだ。
タコっておもろそう。
そう思った瞬間、なるへそ。
タコか。
これなら私にでもできるかも。稲妻に打たれたようにそう思った。
おまけにタコならつれなくてもタコじゃないか。
へへ。今日はタコでした。
そう笑って帰ることができるじゃないか。
よし、タコ釣りに挑戦だ。
今度はタコ釣り名人だ。
さっそくの翌日、スタッフにタコ釣り挑戦への意気込みを語る。
「私、タコ釣りを始めようと思う」
「ああ、そうですか。今度はタコですか」
調剤をしながら、二人はまったく興味のなさそうな生返事。
タコにはタコ返事でいいってか。
こいつら、私がまたアホなことを言い出したと思っているに違いない。
ふん。いいよ、いいよ。
家に帰って子供に話そう。
でもこいつもだ。
「はいはい。どうぞご勝手に。お好きにどうぞ。頑張って」とまったく相手にしてくれない。
なんだ、その冷たい態度は。
頭にきて、翌日スタッフにもう一度に言う。
「大量につってきたら、分けてあげようか」
「はいはい。頼みます」
「夕食の食材は何も買わなくていいよ。大量のタコがあるから。なんなら二人の家の近くまで持っててもいいけど」
「は~い。楽しみにしてま~すよ~」
「いいの。そんないいかたして。予定ではクーラーいっぱいに釣ってくるはずだけど」
「へえ。そうですか」
「そうだ。食べきれなかったら、凧上げ用に大空に飛ばしてくれてもいいし、なんなら車にタコメーターとして搭載してもいいと思うよ。夏場すぐ腐ると思うけどさ、だはは」
スタッフたちは笑わない。
それどころか「そうですか。はいはい。それはそれは。期待していますよ」とまったくつれない。
ほんとにどいつもこいつも。
なんだ、なんだ。ふん。
頭に来ながら、釣り具屋にタコ用の竿と仕掛けを見に行く。
「初心者です。タコ釣りをしたいと思います。何を選べばいいですか」
「タコ? 初めてじゃ、つれないと思いますよ」
「じゃあ、初心者向けの釣りは?」
「サビキかな」
「生臭いエサを触りたくないので、ルアー系がいいです」
「そんなんむりむり。つれないですよ。初心者じゃ」
こちらもにべもない。
いいよ。いいよ。ただ挑戦したいだけだから。タコでいいよ。タコにするよ。
タコがタコ釣って何が悪い、このたぁーこ。ふん、これ以上、バカにすんなって。
「じゃ、タコでいいですね。船ですか波止場ですか」
「波止場。私は船酔いするタイプ。好きなタイプは松下奈緒」
「あっ、そうですか。じゃ、竿と仕掛けはこれとこれで。一番安いやつにしときますね。じゃ、頑張ってたくさん釣ってきてください」
「えっ。釣れるんですか、素人でも」
「まずまず、無理です」
ふん。どいつもこいつも。釣りだけにつれない対応しやがって。
あれ、うまいダジャレじゃないか。おもろいからよしよしよ。ハハハ。
そして、高ぶる感情を抑えながら、本日タコ釣りに行ってまいりました。
タコと言えば、明石。そうそうタコは明石じゃなきゃ。おんぼろ車で江井島まで行き、さっそく釣りの準備をする。
でも、あれ。
まずもって結び方が分からない。調べもしなかった。
適当に外科結びで対処しよう。
まあ、なんとかなるだろう。
と思って、両軸リールの使い方さえ分からず、訳が分からないまま竿を海に向け、ゆらゆらタコくんという仕掛けをえいと投げると、いきなり糸が途方もない勢いで絡みだし、リールが止まってしまった。見ると、リールの中がちりちりのアフロヘアみたいになっている。どうすればいいのだ。波止場に座り込み、もつれた糸を懸命にほどく。むし暑さで汗がにじむ。ほどけない。ほどけない。あーれー。
そうやって二時間ほどが過ぎ、誰も助けてくれず、横の人はもたもたしている私を笑いながら、タイをバンバン釣っていて、なんという衝撃。
ようやく糸をほどきなおし、もう一度海に向かって竿を垂らすと、またリールがじゃがじゃがじゃん、じゃがじゃがじゃんと絡みだす。
くそっ。またか。
横のおっさんたちはくすくす。その周りの小さな子供がげらげら。
糸ほどきのコツだけはつかんだのか、今度は三十分くらいでほどける。
次こそは。糸をゆっくりと、どきどきしながら海面へ垂らす。
今度ばかりは大丈夫。すこし感覚が分かったかも。
でも竿にはまったく反応なし。手ごたえなんてまるでない。
テトラポットに座りながら、時間だけが過ぎていく。その間も汗がだらだら流れる。肌がひりひりして仕方がない。
結局、暑さと慣れない釣りに疲れ切ってしまい、朝早くから来ても、正味糸を垂らしていたのは一時間ばかりか。
釣果はやっぱりタコ中のタコ。
くそお。阪神め。あんたらが勝ってくれないからさ。
ファンはこんな羽目になるんだよ。ちぇ。
でも、あきらめずに次回。
必ずリベンジしてみせようぞ。
俺は男だからな。まあ、ダメダメのダメ中のダメだけど。
でも、悔しいからもう一回やってやる。
絶対にあいつらの通勤自転車とスクーターに生のタコメーターを搭載してやる。
そう決意し、また勝負に挑もう。
たぶん秋口くらいに、いや、冬かな。
それとも来年にしようかな。



 
2020年07月05日 21:05

ゆりの木動物病院

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